2月16日  小休憩3 14:00〜14:15



1階ロビー

後藤ゆりあ

……流石に疲れた。


(2日間の合宿はもうテストの返却と解説、終礼を残すのみである。2日間同じ教科だけというのは思っていた以上にしんどいものだったが、その分理解は深まった気がする。先程行われた確認テストもそう悪い点数ではないだろう…なんて結果を見ないと解らないけれど。等と考えながら、後藤がやってきたのはロビー。疲れた身体に少しばかり甘いものが欲しくなって、自動販売機でホットのカフェオレを買ってソファに座る。普段は砂糖入りの飲み物は飲まないようにしているが、今日くらいは良いだろう…と。缶のプルトップを開けて、一口。)……甘い。(思った以上に甘かったようで、僅かに眉顰め。)


備藤恭次郎

疲れた時は甘い物が欲しくなるよね。


(あと少しでこの合宿も終わりだと思えば、自販機に向かう備藤の足取りも軽い。ミネラルウォーターを買おうと自販機の前に立ち、制服姿スラックスのポケットから取り出した財布の中身を確認すると、万札数枚と12円分の小銭のみ。眉を顰めつつ「嘘でしょ。」呟き、小銭を拝借出来そうな知人が近くにいないかと辺りを窺うが残念だが見当たらない。これは講堂で雑談している友人達の元へと戻って借りるしかないと、溜息と共に自販機から離れようとした刹那、カフェオレ片手にソファで休憩する女生徒の姿が目に留まった。財布をポケットにねじ込むと、迷いのない足取りで彼女の元へ。突然目の前に立った備藤が片膝を立てて跪いたのは彼女が「甘い」と眉を顰めたのとほぼ同時だろう。跪いている今の態勢では彼女を見上げるような格好になるだろうか、至極真面目な表情で見つめる事数秒、ゆっくりと唇を開いて)お嬢様、この備藤恭次郎に150円貸して頂けませんか?(お願いします、と恭しく頭を下げた。ここまでの備藤の一連の行動は悪ふざけであるが、いきなり見ず知らずの男に借金を申し込まれた女生徒は一体どう思うであろうか。)


後藤ゆりあ

そうね。甘いもので気持ち的にも多少は回復出来るし。


(「甘い。」と口に出したのは独り言のつもりだったが、不意に影が落ちれば顔を挙げて。目の前に立つ見知らぬ男子生徒に何かと尋ねる間もなく彼は後藤の前に跪き、こちらを見上げ真面目な表情。何の冗談か悪ふざけだろうか?と只でさえカフェオレの甘さで僅かに顰めていた眉が、より一層顰められ、傍目には不愉快そのものの表情に見えるだろう。実際の所は驚きと困惑なのだけれども、元々の性格もありそれを口には出さず。先に口を開いたのは彼の方。内容を聞けば、恐らくだが小銭がなくて困っているのだろうと推測。ちらりと先程自分も利用した自動販売機を見てから彼を再度見て。暫し悩んだが、それは表情には出さずに彼をじっと見つめるだけ。そして悩んだ末にポケットからスマホを取り出せば何やら操作、どうやらメモ帳の画面を出したようだ。そのスマホを彼に差し出して。)…名前とクラス、それと念のため連絡先。これに入れて。それから、何を買うつもりだったの?(と問うて。金にがめつい訳ではないと思うが、彼は同じ学校の生徒と言う繋がりだけの今初めて名前を聞いた人物。奢ることも出来る金額だが、初対面の相手に一方的に奢ると言う選択肢は後藤にはないし、そこまでお人好しでもないのだ。)


備藤恭次郎

だよねー。俺も勉強の合間にチョコ食べてるよ。甘い物は好き?


(ソファに座るのはモデルと見紛うばかりのスタイルの女子生徒。そしてその傍らで跪いている男子生徒――そんな数学合宿には不釣合いともいえるこの光景は、否が応にも周囲の目に留まるのか、クスクス笑いや「何あれー」と言った声が微かに聞こえて来る。そんな周囲の好奇な目に晒されながらも、備籐は全く気にする事もなく視線は真っ直ぐ目の前の女性へ。嫌悪するかのような表情を見て取れば、見知らぬ男に突然跪かれれば、まあこんな表情にもなるだろうと、笑いそうになるもそこはぐっと堪えて真面目な表情は崩さない。追い討ちをかけるような借金の申し込みには、ただじっと見詰めてくるだけの表情からは彼女の心内を測る事は出来ず、備籐もまた真っ直ぐに見詰め返す。不意に差し出されたスマホに一瞬視線を向けたが直ぐにまた彼女へと戻し、スマホを差し出した意図に微笑むように目を細めながら「了解。」とそれを受け取り、立ち上がった。)……備籐恭次郎。3年1組。10月19日生まれの天秤座でA型。連絡先は……(と、言葉に出しながら、名前とクラスと連絡先、更に求められていない情報まで入力していく。そしてふと手を止めたのなら「スリーサイズもいる?」と下らない冗談と共に笑顔を向ける。)借金の取立てが来る前に返しに行きたいから、こっちもキミの名前とクラス教えて欲しいな。


後藤ゆりあ

好きな方だけど、あんまり食べないようにしてる。


(周囲から聞こえる反応は、実はあまり気になっていない後藤。単に元々の性格もあるし、それ以上に目の前の彼に驚いているという事もある。真面目な表情を崩さない割にはその行動は妙に芝居がかっているように見えて、不思議な人だと思うのだ。スマホを差し出せば意図は伝わった様子、立ち上がった彼に「背、高いな…」なんて関係ない事を思って。彼がスマホを操作している間に財布を開けて、丁度150円を取り出して。スリーサイズもと言われれば少々不思議そうな表情で、)貴方のスリーサイズって、聞いたところで何に使えば良いの?(冗談だろう彼に対して、後藤は真面目に返すのだ。冗談が全く通じないタイプではないけれど、それはある程度親しくなってからなのである。)念のためだから、急かすつもりはないけど……2年3組、後藤ゆりあ。(と最低限の情報だけ彼に伝えれば、先程取り出した小銭とスマホを交換しようとするのだろう。)