先日から恋愛相談にのっていた女子生徒がいた、放課後すぐ彼女の教室へ行けば話の続きを。暫し話した後に彼女は何か決意したように「ありがと、輝くん!」と言って去って行った。)良かった。これで上手くいけば良いんだけどなぁ…(一つ大きく息を吐けばぽつりとそんな独り言を。)さて、僕はどうしようか。(もうこの教室には西野一人しかいない、先程彼女と食べていたお菓子を片づけながら考え始めた。)
(決して盗み聞きをしていたわけではないのだが、たまたま女子生徒と入れ違いのようなタイミングで男が一人教室内へと入り込む。男は一頻り周囲を見渡した後、金髪の青年に目を留めながら真っ直ぐ其方へ近付いて)……これ、廊下に落ちてたんだがお前の物か?考え事をしていたせいでガッツリ踏んだ…念のため先に謝っておく。(相手に向かって差し出したのはキーホルダーの付いた鍵。目の前の彼が持ち主なのかもしれないし、或いはすれ違った女子生徒が落としていったものかもしれず、はっきりしないが先ずはこの場に残った相手に問いかける)
(この後の予定について考えていたせいか人の気配に気づくのが遅れた。声を掛けられて顔を上げれば視界に入ったのは差し出された鍵、見覚えのあるキーホルダーは自分のものだ。更に顔を上げて相手の顔をみればへらりと笑みを浮かべて言葉を返した。)あ、はい。僕のです。鍵が壊れてないなら別にいいですよー。気にしないでくださいねー。むしろ落としてたの気付かなかったから拾ってもらって良かったです。ありがとうございます。(と小さく頭を下げて。西野は本当に壊れたことなど気にしていないのだが、しかし自分が相手の立場だったら気にするよなぁ…なんて。さて彼の負担を減らすにはどうしたら良いのだろうかと思案し始め。その間相手の事は放置している状態なのだが西野は気付いていないのだろう。)
(こちらを見上げて柔和な笑みを浮かべる彼とは対照的に、どこか茫洋とした眼差し向けつつ相手の答えを確認すれば、壊れていないか調べるために視線を一旦鍵へと向けて)見たところ、鍵は折れたり変形したりはしていない。だがキーホルダーは生憎少々イメチェンしたかもしれないな…。気にするなと言ってくれるのはありがたいが、やはり人の物を壊しておいて何もしないのは気が引ける。だから同じ物を買って弁償するよ…どこで売っていたのか教えてほしい。(不注意だったと反省しながら購入先を聞こうとするが、その時丁度相手は何やら考え事の真っ最中で、男はそれに気付くや否や、先に鍵だけ返却しようと思ったまでは良かったものの、何故か相手の頭の上に鍵を乗っけて返そうとする)
(己が浮かべているそれとは対照的であろう彼の視線を特に気にするでもなく。にこにことした表情を変えない西野がいる場所からも鍵は無事であろうことが見て取れたからだ。)本当に鍵さえ無事なら僕気にしてないんですよ。そのキーホルダーだって前のが丁度壊れた所にノベルティでもらったやつだから特に思い入れもないですし。(という訳で購入先を聞かれてもどうしようもないし苦笑するしかなかった。このままだと平行線が続きそうだとは思ったが上手い妥協点が見つけられず。――考えている時に不意に妙な気配を感じた、顔を上げれば何やら相手の手が自分の頭の上にあることに気づいて。)…え?(驚いて瞬き、その後不思議そうな顔で小首傾げた。)
(なるほど確かによく見ると、このキーホルダーにはとある会社のロゴが入っているようで、既に配布期間を過ぎているなら恐らく入手は困難だろう。さあ困ったと言わんばかりに低く唸るがどうにもならず、結局相手の言葉に甘えて頷き返し)分かった、ありがとう。次は踏んでも壊さない…じゃなくて踏まないように気を付ける。これでお前もまた安心して鍵を落とせるな。(冗談とも本気とも取れない口調で告げた直後、男の手を離れた鍵はふわふわとした相手の髪に着地して)良し、上手く乗せられた。……ん?何をそんなに驚いている?あっ…待て首を動かすな、鍵が下に落っこちそうだ。質問ならそのまま微動だにせず行ってくれ。(さらりと無茶な事を言いつつ鍵を元の位置へと直し、自らの作品?を満足そうに腕組みポーズで眺め遣る)
(平行線は思ったよりも長くは続かなかったようだ。暫し困った様子を見せていた相手だが、頷きを返してくれたことで西野自身も安堵し。苦笑からまたへらへらと締まりのない笑みへと表情を変えようか。)いえいえ。そうですねー、壊さないようによりも踏まないようにのが良いと僕も思います。それに、……貴方に拾ってもらえるなら僕も安心ですー。あ、名前聞いても良いですか?僕は1年の西野輝です。(途中相手の名前を知らなかったことを思い出し言葉詰まらせたがどうにか乗り切りこのタイミングでと名前を問うて。――と、頭に何やら重みが。よくわからないが動いてはいけないようなのでそのままの体勢を保ち。とはいえ全く動かないでいるというのも難しい、動いていないつもりではいても多少身体は揺れているのであろう。)えーっと、今僕の頭の上には鍵が乗ってて、別にそれが嫌ってわけじゃないんですけど、どうして急にとは思ってます。(言葉終わりのタイミングで無意識に頷きそうになったがそれを堪えて。)
(ところどころ頭のネジが緩んでいるかのような発言があったにもかかわらず、それを肯定しながら終始笑顔で接してくれる相手に対し、こちらも右の口角だけを僅かに持ち上げ応えてみせた。しかしあまりに些細な変化であるため心の機微は読み辛く、今のが笑みであったと取るか否かは相手の感覚次第であろう)西のピカピカ1年生…覚えたぞ。俺は鷲がパタパタ鷲ヶ峰、鷲ヶ峰征鷹3年生だ。気安くワッシーとでも呼んでくれ。(多少揺れても鍵が落っこちなければ問題無いため腕組みポーズは保ったままで、彼の周りをグルリと一周したかと思えばスッと双眸細めつつ)そこに頭があったから……では問いの答えにならないか?もしくは“急に”乗せるのではなく宣言すれば良かったか?これからお前の頭に鍵を乗せる…と。(今度は真顔で男が首を傾げる番だ。その拍子に前髪が乱れて目元の黒子が露わとなった)
(表情柔らかく笑顔浮かべながらも周囲の観察は欠かさない西野、相手が僅かに口角上げたことにも気づき。その意味を推し量れば一瞬くすりとした笑みを浮かべた。)ワッシー先輩ですねー。にしても西のピカピカ1年生に鷲がパタパタ鷲ヶ峰、ってなんか覚えやすいし可愛い感じでいいですねー。僕も今度からそう自己紹介したいなぁ…いいですか?(今の彼の言葉、気に入ったのだが勝手に使うのは失礼だと思いこてりと首をかしげてそう問うて。――腕組みしたまま己の周囲を一周する相手の様子に少々畏怖を感じつつ、それを表に出さぬよう平静を保ち。その上で鍵を落とさないように…と何故かだんだん必死になってきた西野。顔を動かさないようにそっと目線だけで相手の顔を見上げれば丁度言葉を返そうとしている時で。答えを聞けば安心したように溜息吐いた。)うーん…僕的には宣言してもらった方が嬉しかったですねー。急にはやっぱりびっくりしますから。一言言ってもらえれば…あぁ、でも女の子には声かけたとしてもやめた方が良いと思いますよ?(不意に見えた目元の黒子が恰好いいなと思いつつ、真剣な表情の相手にはこちらも真剣にそう答えるのだ。)
(瞬き数回分の時を経た後微かな笑みは引いてゆく。しかし気を抜くと己の世界に突入しがちな男にとって、目の前の彼は非常に興味深い存在らしく、今もしっかり目線を合わせサムズアップをしてみせながら)勿論良いぞ、自由に使え。ちなみにテカテカという選択肢もあったがどうだろう…そちらの方が良かったか?(どことなく油ギッシュな候補をあげつつ腕組みポーズを解除して、乱れた髪に手櫛を入れれば「了解した」と短く返す)必要とあらば書面での通達も検討しよう。…ん?どうして女子は駄目なんだ?乗せた途端に発狂するとかショック死するでもあるまいに。(物騒な事を口にしながらふとした瞬間廊下を見遣る。次いで響いてくるのは誰かの怒声、それも鷲ヶ峰を呼んでいる。断片的だが「遅い」だの「何処へ行った」などと聞こえてくる辺り、この男を回収しに来たようである)
相手が瞬きをしたことに不思議そうな、でも嬉しそうな表情浮かべ。目上の人に対して失礼かもしれないが、何だか面白い先輩だ。話していて飽きないな、なんて。サムズアップされれば同じように返すのか。)やった。じゃあ遠慮なく使わせて貰いますねー。うーん…僕はキラキラの方が好きですね。お星様みたいで綺麗です。(彼の仕草は一つ一つが格好いいなと思い、しかし自分にはそのようなものは似合わないなと憧れの眼差しを向けよう。)僕には書面は必要ないですよー。先輩もその方が手間が省けると思いますしね。ショック死はしないと思いますけど、大概の女の子は髪が乱れるの嫌いますからねー。ちょっと違うかもしれないですけど、頭撫でられたりそういうのって好意を持っている人以外からされるのはあまり良い気がしないんですよ。(真剣な表情崩さずにそうアドバイスのらしきものを。と、廊下から声が聞こえてきた。どうやら目の前の相手を呼んでいるようだ。)先輩呼ばれてるみたいですねー。行った方が良いんじゃないですか?(言葉ではそう言いながらも楽しかった為に寂しさは隠せないようで。)
(彼のほんわかとした微笑の中に、どこか喜色が滲んでいるのをなんとはなしに感じたものの、それが何に対するものかを追及する気は無いようで、互いにサムズアップを交わした後はあっさり次の話題に移り)キラキラか…俺はその言葉を聞いて星より先に、水面の輝きや木漏れ日の煌めきを連想したぞ。人によって感じ方が違うというのは面白いな。西野もそうは思わんか?(無意識の動作がとても好意的に解釈されているとは知らず、気がすむまで髪を整え終わればその手を腰に添えながら)そうか、心遣いに感謝する。……つまり仲が良ければ乗せても良いと…。仲の良い女子…仲の良い女子……心当たりが無かった場合どうすれば?(色んな意味で詰んでいる、主に青春的な意味合いで。とことん世話の焼ける男はそれでもしつこく「打開策を」と要求するが、流石に激おこぷんぷん丸からムカ着火ファイアーに進化しそうなクラスメイトの怒声を聞いて断念しつつ)待たせていたのを忘れてた…。西野、次こそ女子に鍵を乗せる方法…じゃなくて女子と仲良くなる方法を教えてほしい。じゃ、またな…。(名残惜しいが片手を挙げて踵を返し、来た時同様フラリと外へ出て行った――)
あぁ、それもキラキラって感じですねー。同じ言葉でも人によって捉え方がやっぱり違ってくるんですね。僕も面白いと思います。色んな人にキラキラといえばどんなものをイメージするか聞いてみるのも楽しそうですねー。(なんて彼と話していると色々と考えさせられるというか想像力を働かせるな、と顔には出さずに思いながら「今度二人でインタビューでもしましょうか?」と冗談とも本気ともつかない表情で続けて。)仲が良ければちょっとくらい嫌なことがあっても許す気になるじゃないですか。それと一緒ですよ。心当たりがないならこれから関係を築けば良いんじゃないですか?先輩の場合はきっとこれから仲の良い女性と巡り合うんですよ。(真剣な表情を柔らかな笑みに変えて今西野が出来る精一杯の言葉を。外から聞こえてくる声は先程よりも怒気を含んだものになってきている。引き留める訳にもいくまい「今度までに打開策考えておきますねー。」と手を振り返して見送って。聞こえていた声や足音が聞こえなくなれば今度こそ帰り支度をするのだろう。)