(公園の隅っこに佇む大きな桜の木、薄紅を咲かせているその傍らに白のショートパンツにターコイズブルーのシフォンブラウス姿の女子生徒が一人。学園からの帰り道、生憎の雨により一時の雨宿りとして駆け込んだ先が美しく咲き誇る桜の下だった。鞄から使い慣れたガラケーを取り出せば双子の兄へコール、二回目で反応した彼に状況を説明。鈍間、ボケ、と相変らずの指摘を受けたが当の妹は口許を綻ばせながら「ごめんなさい、みこ。…うん、うん。気をつける」とゆったりした口調で返し通話を切って携帯を鞄の中へ戻す。パラパラ降り注ぐ雫を淡い灰青の瞳が静かに捉えている)この雨で今年は終わりを告げちゃうのかなあ…(花の隙間を掻い潜っては時折雨粒が滴り、白いシュシュで緩く左サイドに結ってあるプラチナの髪をしとり濡らす。一緒に花弁も水を含み落ちていく様を悠長に眺める犬神はふんわりと微笑みを湛えながら唇を開かせて)さくら、さくら、やよいの空は、見わたす限り――(雨音に溶け込むよう響く澄んだ声音は密やかに歌を奏でるのだろう)
(しとしとと春の雨が優しく降り注ぐ学園からの帰り道。桜が咲いてからは挨拶のように朝、夕と眺めていた桜の木の下に先客が居た。プラチナの髪にふわりとしたシフォンブラウス姿の女性が雨に融けてしまいそうで一瞬目を奪われた。傘を差し彼女をぼんやりと見つめていれば不意に聞こえてきたのは澄んだ歌声。小さな頃から母が歌う童謡を聞いて育ってきた宮元にとっては、耳に馴染んでいる童謡が聞えてきた)――いざや、いざや、みにゆかん(無意識に彼女の歌声に合わせるように零れた歌声と共に、ゆっくりと彼女に近づき背の高い彼女に手を伸ばし傘を差しかけた)雨に濡れた桜も綺麗ですね。あなたも…。風邪を引いてしまいますよ?(彼女へとタオルハンカチを差し出し、にこりと笑んだ。桜と雨と彼女の歌声が作り出す幻のような空間で、彼女がアイドル「orbita」の「ここ」だと気づくのはもう少し後になるだろうか)
(重ねるように響いた声は自分のものではなく、不思議に思い薄い灰青の瞳を彷徨わせれば視界に留まる一人の少女。自分よりずっと背の低く小柄な彼女を彩る大きな瞳とぶつかると犬神は歌声を紡いでいた唇に緩やかな笑みを描いて微笑む)お歌、お上手ね?……雨を纏う桜は艶やかで美しいですね。私も?桜と私では勝負になりませんよ?(右手で口許を隠しながら鈴を転がすかのように微かな笑い声を紡いで小さく首を傾げる。差し出されたタオルハンカチには瞳をぱちぱち、それからゆったりとした仕草で少女の小さな手を両手で包むように触れ)ハンカチが汚れてしまいますし、そんなに濡れておりませんから大丈夫ですよ。心配して下さって有難う御座います(ふわりへにゃり締りなく微笑んで、彼女の心遣いに感謝しては頭を下げるのだろう。そうして軽く膝を折り少女の身長と目線に合わせるよう屈んで)傘の下にお招き頂けただけで助かっております(自分にも傾けてくれた傘の下で少女を安心させるよう茶目っ気を含ませ伝えれば、相手の大きな瞳をじいっと見詰めて)――私、犬神心と申します。貴女のお名前をお伺いしても宜しいですか?
ありがとうございます。母の童謡を聞いて育ったので歌は好きなんです。桜の薄紅も少し濃さを増す様で、晴れの時とは違う美しさがあります(雨に濡れる桜を見上げゆるりと目元を緩ませた)…綺麗ですよ。勝負とかではなくて…桜の精のような、雨に融けてしまいそうな気がしましたから(桜を見上げていた視線をそのまま彼女へと移すとにこりと微笑んで)ハンカチは洗えばいいですが、今の時期は雨に濡れるとまだ寒いですし…(出来れば彼女のしとりと濡れた髪を拭いたいが、ハンカチを持っている手を彼女の柔らかな両手で包まれてしまい動きがとれず、頭を下げられれば困ったように眉尻が下がった)とんでもないです…その、逆に気を遣わせてしまって申し訳ありません。私が傘を持っていると低いですよね…(彼女が膝を折り己と視線を合わせてくれた事に気付けば小さく笑って)犬神心さん…あ。最近雑誌で見かける「ここ」さんですよね?「orbita」の。私は雛の森学園高等部1年の宮元鈴樹です。こんなところでお会いできるとは思っていなかったので、すぐに気付けなくて申し訳ありません(羞恥で僅かに頬を染めながら彼女の薄い灰青の瞳を見つめて小さく微笑んだ)
そうでしたか、貴女の為にお歌を奏でて下さる優しいお母さんなのですね。私もお歌は好きです、身体を動かすのも好きですけれど。どんな姿でも心惹かれるのが桜なのかもしれません(同じように視線を持ち上げ雨で艶めく桜を眺めては淡く微笑み感嘆と共に穏やかな声音を響かせた)……わぁ、そんな風に仰って頂いたの初めてですからびっくり。雨に融けちゃいますのは…うーん、流石に困っちゃう。学園に通えなくなりますし、お仕事もできなくなりますもの(少女の言葉を聞くと瞬間的に灰青の瞳が丸くなり、ぱちりぱちりと瞬いたがすぐに幼い笑みを滲ませながら若干的外れな返答をするのだろう)………ふえ、え…えとっ……うんと、じゃあね、私が傘を代わりに持ちますので、髪を拭いてもらうというのはどうでしょうか?(相手からの気遣いを無駄にしないよう能天気な頭で考えた末の提案をぽやぽや気の緩んだ笑顔と共に小さな彼女へ投げ掛けてみる。そして差し伸べた手に傘が渡れば少女と交代する筈)はい、orbitaのここでもあります……ふふっ、謝られる必要はないと思うのですけれど。あっ、私も兄と一緒に雛ノ森学園に通っておりますの。宮元さんと同じですね。(えへへっ、と嬉しそうに頬を緩ませて「私は3年ですから宮元さんは後輩さんだあ」なんて返すのだ)
はい、そのおかげで私も童謡や唱歌は好きです。運動も得意なのですか?(儚い雰囲気の彼女が運動しているところの想像がつかなくて一瞬驚いたようにぱちりと瞬いて)本当に…蕾の時から散り際まで、晴天でも雨でも、それぞれの時で魅せられます。夏の葉桜も深い緑が綺麗で好きです(ひらり、雨で落ちてきた花びらを目で追いゆるりと頬が緩んだ)ふふ、確かに融けちゃったら困る事はたくさんありますね(どこか的外れな言葉も可愛らしく思えて、くすりと小さな笑みが零れた)ええと…すみません。気を遣わせてしまって。それじゃあ、お願いします(彼女が考えてくれた事は宮元にも良く分かり、彼女の提案に快諾の意を示すと、差し伸べられた手に「重いですよ?」と一言を添えて、16本骨の雨に濡れると桜模様が浮き出る傘を彼女に手渡すだろう)…髪、拭いてもいいですか?(無事に傘を手渡せたのなら問いかけて是との答えがあれば、しとりと濡れたプラチナの髪に手を伸ばしタオルハンカチをそっと滑らすだろうか)同じ学園だったのですね。私の事は鈴と呼んでいただけると嬉しいです。ここ先輩、とお呼びしてもいいですか?(頬を緩ませる相手に、にこりと嬉しそうに笑みを返して問いかけて)
じゃあ、部活は合唱部か何かでしょうか?得意だと思いますよ、ほぼ毎日ダンスレッスンをしておりますし。子ども達と二時間追い駆けっこしてもへっちゃらなのです(表情に驚きを示す少女とは対照的に暢気な笑顔と共にえへんと得意気に胸を張って)新緑の季節は瑞々しいエメラルドみたい。でも、やっぱり今の季節の桜が一番好きです。(のんびりしたテンポの口調で紡ぎ指先で幹に触れればそろりと愛しむように撫で、灰青の瞳を和らげ嫋やかに微笑んだ)ええ、みこを一人残してしまったら大変。きっとぷんすかだわ…。(――と、双子の兄を思い浮かべたのか、今度は真剣な表情でこくこく頷き)先に気遣って下さったのは貴女ですよ。ふふっ、承知致しました。お任せあれ(少女から了承を得て、その傘を受け取るとなるべく彼女の方へ傾けて差そう。傘の布地に咲く桜模様をちらりと視線を向けては「この傘、かわいいっ」なんて呟いて)はい、どうぞよろしくお願い致します。なんだか私の方が年下みたいですね…えへへー。(問い掛けに頷きながら傘を持っていない方の左手でシュシュを解き手首に飾れば、濡れても尚鈍く銀に輝く髪を拭いてもらうのだろう)鈴樹ちゃんではなく、鈴ちゃん?うん、私は呼びやすいように呼んで頂いて大丈夫。
いえ、部活は園芸部に所属しています。歌は好きですが趣味で歌うくらいです。ダンスも得意なのでしょうか?二時間追いかけっこしても平気なのは凄いです。体力があるんですね…(「私なら無理です」と驚きの表情のまま数度瞬いた)はい、風にそよぐ葉が奏でる音も心を落ち着かせてくれます。ふふ、そうですね。今の時期の桜が一番綺麗だと思います。ほんの2週間ほどの桜の見せ場ですから(彼女が愛おし気に桜に触れる様子を見る目元は緩められて、自然と微笑が浮かんでいた)みこ…ですか?(真剣な表情になった彼女の口から出た名前らしき単語に、誰だろう、とぱちりと瞬いて。彼女へと傘を渡し己の方へ傾けられているのに気付けば、彼女に気付かれない程度に少しだけ押し返して均等になるようにするだろう)濡れると桜模様が出るので、雨の日でもお花見が出来るのでお気に入りなんです(傘を見上げてにこりと笑って)年下と言うよりも…可愛らしいんだと思います(「仕草も言葉も」と率直な感想を述べ、彼女を見つめてにこりと微笑んだ。解かれたプラチナの髪にそっとハンカチを滑らせて雫を拭い取り「綺麗ですね…」と無意識に言葉が零れた)はい、鈴樹だと、よくある苗字と一緒なので鈴でお願いします。では、ここ先輩と呼ばせていただきますね(改めて呼び名を確認して、にこりと嬉しそうに笑った)