(音楽室。音楽を愛し、軽音楽部に所属している彼女にとってみれば、そこは我が家のようなものだ。がらんとした室内にたったひとりきりでも、なんら心細くなることもない。適当な席にかばんと担いできたギターケースを置けば、一度準備室へと姿を消して――)今日はアコギの気分だから借りちゃお〜(ウキウキと戻ってきたその手には、備品のアコースティックギター。行儀悪くも机の上に腰掛ければ、慣れた手つきで抱えた。適当にコードを弾きながら、おおまかにチューニング。気分よさげな鼻歌はあまり上手いものではないけれど、)
ひょろっとした長身が廊下を進む。教師に頼まれていた雑用をこなせば、帰り支度をして家路に着こう。そんな折、聞こえてきたのは鼻唄声―)……音楽室?(丁度、目先にある音楽室から聞こえて来るではないか。気分良さげな歌声に誘われるように、そこの扉を開いてみれば、目に飛び込むのは一人の少女。彼女の演奏が終わるのを待てば、拍手をして近付いてみようか―)上手だね?音楽が好きなのかい?
(リズムに合わせてぶらぶらと両足を揺らしながら、歌とも呼べないようなふわっとした演奏にフィーネを。ふむと息をついた時、背後から乾いた音が聞こえてきたなら)えっ…!やだっ、聞いてたの?りな、歌は自信ないのに〜(予期せぬ訪問者に、ぱちくりとまばたき。そして、こちらへ歩み寄る彼に向かって親しげに声をかけた。)ありがとう!うん、りな、音楽好きだよ。軽音部なの!本業はギターだよ。(褒められたことに気をよくしたのか、ヘラリと笑って答える。ギターを宝物のように抱きしめる様を見たなら、「好き」という言葉に混じりけのないことも想像に易いだろう。しばらくニコニコと楽しそうに笑っていたが、「あれ?」と声を上げて)キミのほうこそ、どしたの?音楽室に用事?(と、首を傾げてみせるのだった。)
うん、聴いてたよ。でも、途中から…かな?(最初から聞き耳を立てていたわけではないと弁解しつつも「可愛い歌声でした」と一つ微笑みを浮かべて。)軽音部かあ…まさしく音楽好きが集まりそうな部活だね。……他の部員は?(キョロキョロと辺りを見渡せば、彼女以外の姿を見付けることが出来ず不思議そうに小首を傾げて。)ギターって言うと、こう…ギュイーーンって鳴らす感じの?(進藤の個人的なイメージ。身振り手振りでギターを弾く真似をして見せながら、本当にギターが好きだということ伝わってきて思わず小さく微笑んだ。)俺?特に用事はないよ。個人的な用事を済ませて、教室に帰る途中だったんだ。
途中からでもだめだよぅ、盗み聞きの現行犯で逮捕〜!(はしゃいだ声を上げながら、両腕で大きくバツ印を作ったが、続いた甘い言葉にはへらっと頬を緩めて)えへへ、そう?かわいかった?じゃあ許しちゃう!(と、あっけなく前言撤回した。)他の子たちは、今日は帰ったよ。デートとか外部のバンド練とかあって。りなだけが暇人。(首を傾げた彼に、ぷぅと退屈そうに頬を膨らませながら説明。「でもそのおかげでキミに会えたし」とニッコリするのだから、本格的なご機嫌ナナメではないようだが、)ふふっ。ギュイーーンってかんじのもあるし、ボロロ〜ンってかんじのもあるよ。(彼の表現に小さく笑いながら、ウンウンと頷いて肯定した。特に用事はないという言葉を聞いたなら、嬉しそうに瞳を輝かせて)じゃあさ、りなとちょっと喋ろうよ!ギターもう1本あるし、教えてあげる。
逮捕?俺、捕まっちゃった?(けらり、と笑いながら両手を差し出してみれば、お縄に掛かろうと。)うん、可愛かったよ。小鳥の囀りみたいだった…っていうのは、ちょっと言い過ぎかな?(くすくすと悪戯な笑みを浮かべて。)…なるほど。みんなそれぞれに予定があったってわけか。…たまたま暇人だったんでしょう?(頬を膨らませる愛らしい姿に、微笑みを浮かべては「確かにその通りだね」と彼女の言葉に同意を示した。)あ、俺ボロロ〜ンって感じのが好きかも?綺麗な音色はずっと聞いていたくなるなあ…(と言ってもその後、眠くなってしまうのだけれど。流石にそんなことは言えず、苦笑いで誤魔化して。)本当に?俺、全然ギター弾いたことのない初心者だよ?覚えられるかな?…でも、りなちゃんとはお話ししたいから、ちょっと居座らせてもらおうかな。
捕まっちゃったよ〜がっちゃん!(両手を差し出されたなら悪戯に笑って、彼の手首の片方を両手できゅっと握って手錠のつもり。)わ、りなそんなこと言われたの初めて!…おにいさん、慣れてる?プレイボーイ?(自然に気障な褒め言葉が出る彼のことをまじまじと見つめながら首を傾げて。)うん。いつもはもう少し居残り組がいるんだけどね。学園祭の時期でもないから、ちょっと活動が緩めなんだ。(自身の言葉に対してフォローと同意をしてくれたことに嬉しそうに頷いて。)ボロロ〜ンはこっちのギターだよ!(ギターに対して好印象を持ってくれたらしいと見れば、がぜん元気になって。今まで自身の抱えていたアコースティックギターをはい、と手渡しながら)だいじょぶ、ゆっくりやれば、カエルの歌くらいならすぐ弾けるようになるよ!アコギは機械繋がなくても音が出るから演奏してる感もあるし(楽しげに説明しながら、自分はケースから自前のエレキを取り出そうか。)…あっ、あたし、橋本リナ!キミの名前も、聞いてもいい?
現行犯だね(くすくすと笑みを浮かべながら、片手首を掴まれ逮捕された。もう片方の手が空いているから、思わずノリのよい彼女の頭をいいこいいこするように撫でて。)どうだろうね?プレイボーイならもっと気の利いた言葉が出るかもしれないよ?(マジマジと向けられる視線に、くしゃりと頬を緩めて。どれも本から得た知識であり、実践ではほとんど使用することのない言葉だろう。まさしく気障な台詞という奴だ。)ああ、確かに学園祭ってバンドの公演があるよね。……そういえば俺、一度も観に行ったことなかったなあ…(今までの学園祭を思い出せば、そういう催しに足を運んだことがなかったと気付いて。ぽつりと呟くように言葉を零すのか。)へえ…ギターによって音の出方が違うのかい?(興味が段々と湧いてきたらしい。彼女が抱えていたギターを両手で受け取れば、さて、どうやって持てばいいのだろうかと小首を傾げて。)カエルの歌なら輪唱って感じだよね。ギターでも出来るのかな?(なんて疑問を口にしつつ、彼女が取りだしたエレキギターに「そっちはカッコイイね」と感想を漏らそう。)橋本リナちゃんだね。俺は進藤英吉。3年だよ。
このまま署まで来てもらおう〜(彼が気さくに応じてくれるから、警察官ごっこは和やかに続く。いいこいいこされたなら面食らったように瞳を丸めたが、)...えへっ、なんか、親戚のお兄ちゃんみたい。(と、心の安らぎを表現した。)小鳥のさえずりより気の利いた褒め言葉なんてなかなかないよ〜!少なくとも、りなの友達の中ではダントツでプレイボーイ。(うんうんと自分の言葉に納得するように頷いて。)そうなの?じゃあさ、今度あったら観に来てよ!りな、招待するから。きっと楽しいよ。...そうなの、アコギはこの丸いところで音を反響させるようになってて、やわらかい音色が出るんだよ。(自分の好きなものに興味を持ってもらえるのは嬉しいことだ。どう持てばと戸惑った様子の彼にふふっと小さく笑えば、)えーきちくん。3年生なら、りなとタメだね!ね、りなの隣に来て。こうやって、細いほうを左手で持つんだよ。(と、並んで座ってまずは構え方の指南から始めよう。)エレキはギュイーーンの方のギターだよ。ドラムとかマイクの音に負けないように、機械につないで大きい音が出せるようになってるの。音色はぜんぜん違うけど、輪唱するのも楽しそう!
あ、俺カツ丼苦手なんで、出来ればお茶漬けあたりが良いです(警官ごっこが楽しく、ついついさらに冗談を織り交ぜて。もはやただのコントか。)俺、親戚の子ってみんな年下だから、その通りかも(彼女の例えに、柔らかく微笑めばこくんと頷いて。)天使が愛を囁いてるとか、そういう事も言えそうじゃない?でも、リナちゃんの歌声は春の訪れを喜ぶ小鳥っぽいなあって思ったからね。ふふっ、ダントツ?それは光栄だね、って言っておけばいいかな?(くすくすと楽しげな声を転がして。)本当?いいの?じゃあ観に行ってみたいな。あ、でも頭振ったりとか…そういうのは…出来ないかも?(バンドの公演で思い浮かべたのがいつぞやテレビで観た観客が頭を振っている光景で。流石にそれは出来そうになく、苦笑いを浮かべて。)なるほど…だから穴が空いてるんだ…(へえ、とギターの構造に興味を示して、そっと穴の中を覗いてみたり。)え?リナちゃんも3年なの…?あ、ごめん。俺、てっきり…(その後の言葉は、思わず飲み込んでしまった。彼女が自分よりも年下だと思って接してきていたせいで。――彼女の隣に来れば、そこに腰を落ち着かせて。首だけを彼女の方へと向ければ、言われるがまま左手側に細い方を持ってきて。)こうかい?(彼女に見せるようにしながら、とりあえず持っているというだけで、その姿はどこかぎこちない。)そっちはギュイーーンって音が出せるんだ?あ、機械に繋ぐの?へえ…!すごい、知らないことばっかりだ。楽しいね?(知らないことを知っていくのが楽しいのか、笑みを浮かべて。「まずは弾けるように頑張らないとな、俺」と続けては彼女の期待に応えるように頷いた。)
わがまま言うな…って、え〜?!かつ丼嫌い?なんで?(スルーしなかっただけよかったものの、ツッコミの角度は大幅にずれた。肉食女子の彼女からしたら、彼の発言は信じがたいものだったようで。)やっぱり〜、なんか、にじみでるお兄ちゃんオーラ!ってかんじだもん。(読みが当たったことが嬉しいようだ。その笑いかたとか、と得意げに付け足しながら、へへっと照れくさそうに目を細めた。)あはっ、天使が愛を〜はキザすぎてギャグになっちゃいそう!やっぱり小鳥のさえずりが絶妙だったと思うな〜。あっほら、またそうやって嬉しいこと言う!(歌声を小鳥のようだと言われて喜ばない女子がどこにいるだろうか。お上手なんだから〜とひらひら手を振る、彼女の目じりは下がりっぱなしだ。)うんうん、是非来て。あはは!頭振るのって、ヘビメタ的な?大丈夫だよ、りなのバンドそこまで激しくないから。それに、ああいうのはやりたい人だけやればいいんだよ?(不安そうに条件をつけた彼の言葉に、弾けるような笑い声。ピッとひとさし指を立てながら、「楽しみかたは人それぞれだよ」、だから問題ないと請け負った。もっとも、頭を振り回す彼の姿にも、とても興味はあるのだけれども)そうそう。木で出来てるから優しい音が鳴る…のかなって、りなは解釈してる。詳しくはわかんないけど。(空洞を覗きこむ彼の姿を微笑ましく眺めながら、そっと寄り添うような声で補足して。)そうだよ、りなは最上級生!あ〜、さては後輩だと思ってたんでしょ〜!(語尾を濁した姿から察して、漫画ならばプンスカとでも書いてありそうな大袈裟な怒ったアピールをしてみせた。実際はそれほど気にしていないのだけれども)…ふふ。うん、それでいいよ。でね、中指はここ。これがド。(隣で奮闘する彼に頬が緩む。両手で彼の左手の指を正しい弦の位置まで導けば、最初は単音から練習を始めようか。エレキにも興味を示した彼にはまたも得意げに口角を上げて、ジャカジャカと適当なコードを鳴らしてみせるのだった。)えーきちくんは勉強熱心だねえ。そんなに喜んでもらえると、りなも教えがいがあるよ!
うん?カツ丼嫌いだよ?何でと言われると……そうだなぁ、カツの衣がびちょびちょなのが苦手かなぁ?(一つ考えれば、嫌いな理由を述べて。サクサクな衣のままの方が好きなよう。「りなちゃんはカツ丼好き?」と小首を傾げて。)お兄ちゃんオーラ出てた?一人っ子だから、そう言われると嬉しいな(ふふ、と照れくさそうにも喜びの色を含んだ笑みを浮かべて。)ギャグっぽくても笑ってもらえるなら本望かな?良い塩梅になったみたいで良かった(ひらりと手を振る彼女の様子に目を細めて。)じゃあ絶対に観に行くね?…ヘビメタ?そういうジャンルとかよくわからないけど、りなちゃんのバンドがそこまで激しくないなら安心した。そうなんだ?お客さんはみんな頭振ったり踊ったりしなきゃいけないんだと思ってたよ…(彼女の説明に、心に引っかかっていた不安のトゲがすっかりと抜け落ちて。きっとこの様子なら彼女のライブも楽しめるだろうと、そんな予感がした。「俺なりの楽しみ方を見付けてみるね」と彼女に微笑みながら頷いた。)一本の木をくりぬいてるのかなぁ?それとも繋ぎ合わせているんだろうか…?(じーっと穴を覗き込んで、興味は音色からギター本体へと移って。そんな疑問をポツリと呟いた。)あ、バレたかい?実は、年下だろうと思ってたんだ。ごめんね?(怒った様子の彼女に謝罪を入れつつも、深刻に謝っている雰囲気ではなく、やわらかな笑みを浮かべて彼女の機嫌が直るように。そんな思いを込めた謝罪。その前髪を優しく撫でるよう手を伸ばそうか。)……ふむ。ここがド?(合わせてもらった位置を覚えるように、じっと指を見て。押さえている一本の弦を鳴らしてみせた。「あ、本当にドだ…!すごい!」と初めて鳴らした音に目を輝かせては喜んで。)りなちゃんみたいな音はまだ難しそうだけど、せっかく教えてもらうんだもん。少しくらい出来るようになりたいしね?それに、りなちゃんの教え方が上手いからだよ。
あ〜、それはちょっとわかるかも。えーきちくんはかつ丼よりトンカツ派?そこは好みの問題だよねぇ(理由を告げられたならぽんと手を打って納得顔。向けられた質問には、「うん、だいすき!」と屈託なく返答しよう。)出てた出てた!え〜、ひとりっこなの?意外!そしたらりなと一緒だね。(うんうんと頷いて太鼓判。彼が自分と同じく一人っ子だと知れば、目を丸くして声をあげた。)そこでそういうふうに考えられるえーきちくんはオトナだ。ほんと、ちょうどいいお砂糖加減だよ(と、微笑む彼に応えるようにへらっと笑って小首を傾げて。)えーきちくんが言ってるのは…こういうっ、かんじでしょっ?(と、激しく頭を振り回す――いわゆる「ヘドバン」を実演してみせて。)…ふぅ。ああいうバンドは実はめちゃ楽器上手いことが多いからね。くやしいけど、ちょっと今のりなには弾けないな。(乱れた髪を直しながら、涼しげに笑った。「えーきちくんのヘドバンも見たかったけどね」と悪戯っぽく付け足すことも忘れずに。)繋ぎ合わせてる……かなあ……?えーきちくん面白いね。りな、そんなこと考えたことなかった。(彼の視線を追うように、穴の中を覗き込んで。言われてみたら、ギターとは不思議な構造である。)もー…なんてね。りな慣れっこだから気にしてないよ!若い証拠でしょ?(甘やかされることはまんざらでもない様子で、わざとらしく続ける怒ったアピール。彼のてのひらが額に触れるのを、くすぐったそうにはにかんで受け入れた。――気付けばすっかり暗くなるまで、ギターを手に話し込んでしまった。もしも彼が頷いてくれたなら、方向が違えるまで共に家路を歩むのだろう。仮に音楽室で別れたにせよ、じゃあねえ、と手を振る彼女の表情は、満面の笑みだったに違いない――)
でしょ?トンカツは好きだよ。サクサクだし、ご飯も進むからね(彼女の言葉には一つ頷いて。「モリモリとかき込んでそうだね。」とその屈託のない返答に自然と笑みが零れた。)うん、一人っ子だよ。リナちゃんも一人っ子なんだ?上にお兄さんかお姉さんがいるかと思ったよ(こちらも意外そうな声で、一度瞬きをして。でもすぐに一人っ子ということにも納得するのだろう。)大人と接する機会が多かったからね?自然と大人びちゃっただけかも(くすくすと楽しげに笑った。)……!?っ、あ、うん…!そういうの…だけど、急にするから吃驚しちゃったよ(不意に始まったヘドバンとやらに、吃驚して一瞬言葉を失ってしまって。落ち着きを取り戻せばドキドキしながら頬を緩ませた。)へえ…そうなんだ?じゃあ、周りに吃驚しないでちゃんと聴いてみるのもいいかもしれないなあ…(ふむ、と彼女の言葉に頷いて。「俺がやったら死んじゃうよ」と続けてはひらり手を振って笑った。)何だろう、多分何にも知らない初心者だから変なことが気になっちゃうかもしれないなあ(苦笑いを浮かべながらも、同じように穴の中を見ていた彼女の様子に微笑んで。)うん、若い。俺より若く見えるし何よりパワフルで元気いっぱいな感じが良いよね(羨ましくさえ思える彼女の振る舞いに、また一つ笑みを零した。――楽しく充実した時間はあっと言う間に過ぎるものである。彼女と共に家路について、方向が違えるところまで来たのならば「またギターを教えてね?」と告げて、手を振って別れるのだろう。)