(ぜえ、はあ、ぜえ、はあ。徒歩約一時間かかる所を二時間近くかけて、息絶え絶えにふらふらと森を抜け歩いてきては、小高い丘を発見して、安堵に力が抜けたのか、周りの目など気にせずその場にばたりと横たわった。生い茂る草がチクチクとしたがそんなのはお構いなしに、息を整えるように寝転がったまま深呼吸。)…遠すぎ…、引きこもりなめんな………。(七夕の夜といえば、なんでも、お願い事をすれば叶えてくれるらしい。そして今夜は晴れで、此処に来れば星がとても良く見えると聞いた。そうだ、目的がなければこんな所、体力のない引きこもりが歩いてでも来るわけがない。何としてでもお願いを叶えてもらわないと、─そう思って仰向けになり大の字で寝てみれば、なんともまあ、一面にキラキラと沢山の光る星。)……おぉ、晴天の星空というのは、こう、なかなか…、…(予想以上に、綺麗である。)
(部活後のロードワークがてらに先日クラスの人間が星見の出来る場所があると言っていた小高い丘を目指しているのだろう)うわっ…迷子になったらどないしよう(あたりをきょろきょろとしながら森に差し掛かると思わず足を止め、再度歩を進めるのだろう。少しすれば森は開け安堵の域を小さく吐き出せば深呼吸しようか)うわー思ったよりええとこやん!(空を見上げ、きれいに瞬く星に気を取られていると近くで女性の声が聞こえあたりを見渡そう。寝転がっている彼女に気づき)気持ちよさそうやね(にこにこと笑顔を浮かべながら少し距離を置いた場所にしゃがみ込むのだろう)
(しばらくぼー…っとそのまま寝転がっていたら、誰かに声を掛けられはっとした。人目なんて気にしないでその場に寝転がって居たけれど、いざ誰かに声を掛けられてしまうと少し意識してしまい、もしかして自分は今ちょっと恥ずかしいことをしてるんじゃないかな、と先方の行動を後悔した。まさか誰かに気に留めてもらえるなんて思っていなかったのである。)……ちょっとまだ、息切れが続いてるので……気持ちよくはないです、苦しいです。(もう、呆れるほどに体力不足である。まだ整ってない息遣いで、声の主の方をちらっと見れば)…其方も、やっぱり、星を見に来たのですか(と、仰向けのままで問いかける。)
(体力には自信がある杵原からすればくるしいという返答があるとは想像がつかなかったのだろう、夜空を仰ぎ見ていた視線をバッと彼女に戻せば口をパクパクとし)え?あ…苦しいん?大丈夫ですか?どないしよ…お茶飲む?(鞄から350mlの未開封のペットボトルを取り出し、差し出してみようか)あ、開けてへんから安心して?(へラッと笑い――星を見に来たのかという問いにはその場に腰を下ろし右手を夜空にかざしながら)んーそういうことになるんかなぁ。教室で聞いたからどんなもんかと思って寄ってみたんっすわ。思ったより綺麗でつかめそう…(かざした手でこぶしを作り)ってことはお姉さんも星を見に来はったんですよね?この星空、どないです?(ぼーっと夜空を仰いだまま大きく息を吸おうか)
(苦しい、という発言に対し明らかに彼が慌ててしまっているのに、自分はそのままぼーっとしながら、あ、このひと関西の方なのかな、なんて呑気に考えていた。実はそんなに大したことないので、申し訳ない気持ちも少しは…ある、はず。けれど目の前に差し出されたお茶には遠慮なく、)あ、いいんですか。ありがとう。頂きます。(なんて、先程の息の整ってない途切れ途切れな声とは打って変わって、それはもう饒舌にお礼を言ってみせよう。体力は無いが、図々しさは人一倍である。)………星は何億光年も遠くの場所にあるので、向こうから降ってこない限り掴めないと思いますが。(彼のロマンチックな発言にはバッサリ。空気が読めないにも程があるが、本人は至って真面目で、)…どうって…、うん、綺麗だと思う。わたし、こうやってちゃんと星を見たのは初めてです。(よっ、と、やっと起き上っては、同じように夜空を仰いだまま)
(差し出したお茶を受け取ってもらえたことに小さく安どの息をつけば口角を引き上げ笑みを深めるのだろう。そして饒舌な彼女には驚きを隠せずに目を見開くが、プッと吹き出せば)ええよ、遠慮せんともろたって(くつくつと肩で笑いながら手渡すのだろう。――正論を向けられると口を尖らせむくれた表情で)…わ、分かっとうけどさ、雰囲気やん?つか、降ってきてもつかめる程のってあんまない気がする。…詳しないから憶測やけど。実際つかめたらつかめたでテンション上がるけどな!(想像しているのだろうか、こぶしを引き寄せニタっと笑みを浮かべているようだ。――起き上がった彼女に一度視線を向けるがまた夜空に視線を戻し)ホンマ綺麗やねぇ。星って見ようと思わんと他の光に負けるもんなぁ。勿体無い…(自身の頭をクシャッと掻けばすくっと立ち上がり)おじょうさん、名残惜しいけどもう遅い時間やわ。そろそろ帰りぃ?(腕にしていたであろう腕時計の電光板に表示された時間を見せながら)なんなら麓まで送ろか?若い娘さん一人で帰らすんは男としてどうかと思うし…(どうする?と小首を傾げ問おうか)