(最初は来るつもりなどこれっぽっちもなかった。部屋から見るのだけで十分だと思っていた。だけど、友達があんまりにも強く勧めてくるのと本当に綺麗だからという胡散臭い文句がずっと頭を離れなくて。その日も特に目ぼしい予定なんてなかったから、まあ一度くらい話のタネにでも――そんな気持ちで重い腰を上げたのは、普段の怠惰ぶりを知る友人たちからすればきっと奇跡だと言われるだろう。そんなこんなで現在の朝吹は学校から少し離れた小高い丘の上で目を凝らしながら空を見上げていた。)……夏の大三角形って、どれ。どれも同じ星にしか見えないんだけど…この中に三角形があると思えない…。(しかし、困った事にいくら目を凝らしても皿のようにしても名物らしい三角形なるものが見えないのだ。結局、朝吹は最大限に目を細めて夜空を見つめる―だが、それではまるで睨み付けているに思われても仕方ない形相だったが。)
(先日占星術をモチーフにした小説を読んだからかなんなのか、地域探索同好会の報告を聞いて星を見たくなった西野。今日に合わせ家のクローゼットから小学校の時に使った教科書と星座早見盤を引っ張り出してきて、それらと懐中電灯と時計をリュックに入れて学園から約1時間。のんびりと歩いて来ればあちらこちらに人の姿。よく目を凝らすとそのうちの何組かのカップルは知った顔だった。そんな光景を微笑ましく感じながら丘の上を歩いていると、よそ見をしていたせいか何かに躓いた。)っ、危な、(慌てて体勢を立て直したものの、少々恥ずかしかったらしい。誰かに見られていないかと辺りを見回すと、空を睨み付けるように見ている少女の姿が目に入った。)
(いくら目を凝らして睨んでみても、残念ながら星座が勝手に線で繋がれてくれたりもしなければ星座の名前が浮かんでくるわけでもない。また、突発的に外に出てきたので星座の早見表なども持ち合わせておらず、色々と失敗したと気付く。――と、近くで何だか不穏な音がした。まるで誰かが躓いたような。そう思ってみたら、本当に人が躓いていたから目を瞠った。)あぶ、(ないと思わず声が出かけたが、彼が姿勢を立て直すのをみれば一安心。視線はもう空から金髪の彼の方へと向けられて、)……大丈夫だった?暗いから転びやすいよ。(さすがにもう睨むような悪い形相ではなく、ごく普通に単調な口調と表情だったのだけど。)
(声をかけられれば見られたことに気づき、恥ずかしいと思ったもののそれを顔に出さないのが西野である。)あははー、見られちゃいました。大丈夫です。ありがとうございます。気を付けなきゃですねー。(と、得意のへらりとした笑みを浮かべてそう答えた。彼女がどうやら一人でここに来たであろうことは、先程見かけた時の雰囲気でなんとなくわかった。なのでこう続けてみよう。)あのー、お嫌でなければご一緒しても良いですかー?僕、一人で来たんですけど、せっかく色々持ってきたのに一人だとつまらないなぁと今になって思いまして。(「もし嫌だったらはっきり言ってくださいね?」なんてこてりと首を傾げて。)
……見ない方がよかった?ま、音したから仕方ない。でも転びはしなかったんだし、よかったね。(特に動じた様子もなく、ピンピンしている様子の彼を見れば心配の必要もないだろうと分かった。しかも面識のない自分に対してもさらりと笑みかけてくれるところを見ると、社交性も高いらしい。ちょうど一人で星座の名も形も分からず暇を持て余していたので、彼の登場は朝吹にとっては有難かった。)あ、うん。大丈夫。けど、色々持ってきたって…どんなものを持ってきたの?私は逆に何も持ってきてなくて暇してたわけなんだけど。(続けられた親切な言葉に対しても「嫌じゃないから。」と頷き返し、彼が何を持参してきたのかを問うだろう。朝吹の頭では星座の表やカメラ、望遠鏡ぐらいしか思い付かないが。)
まぁ、わざわざ見てほしいものではないですけど、不可抗力は仕方ないですよー。ありがとうございます。って僕、お礼ばっかり言ってますねー。(あははと笑いながらそう言って。今までの様子からあまり感情を表情に出さない人なのかな?と思ったがそれは彼女の個性だ。気にすることなく。続けられた言葉に「じゃあ、お言葉に甘えて。」と返し背負っていたリュックをおろして中身を出しながら。)星座早見盤に、教科書、懐中電灯、時計も使えるって書いてあったので、一応持ってきましたー。これでなんとなくでも星座がわかれば楽しいですよねー。でも、望遠鏡は持ってないから無理ですけど、オペラグラス位はあっても良かったかもしれないなぁ、と今になって思いました。(珍しく無邪気な表情を浮かべながら。持ってきた懐中電灯で照らしつつ教科書を捲りながら話しかけて。)こういうのって得意ですかー?
そうそう。ま、気にしないから私が何かやらかしたときも見逃してね。…たしかに。別に大したこと言ってないし、してもないから、適当に受け流しといて。(笑いかけてくれる彼に対し、朝吹は通常運転――というか、単純に表情筋を使う事を面倒臭がっているだけなのだが。しかし、顔に表れずとも彼との会話を朝吹なりに楽しんでいるのは確実。何だか大きなリュックを下ろして中から様々なものを取り出していく様子を眺めていたら――某未来のロボット猫の道具を取り出す効果音が脳内で鳴り始めた。)……思ったよりすごい用意周到でびっくりしてるんだけど。本気の天体観測って感じ…星、前から好きとか?分かれば探す楽しみもあるし…とりあえず見ようと思ってきたぐらいだから、方法とか何も考えてなかった。それは私も同感。自分の視力に頼るしかないね。(楽しげに説明をしてくれる様子はまるで自慢の玩具を自慢する子供みたいな表情だなと思いながらも、朝吹も顔を近付けて彼の照らす教科書を覗き込もう。)……星座を見つけるの?もうよく覚えてないけど、そんなにてこずった記憶はないと思う。そっち……ていうか、名前聞いてなかった。私、朝吹しえな。君は?(と其処で漸く何となく自己紹介をすっ飛ばしていた事に気付き、しれっと付け足しておこう。)
そうですねー。もし何かそういう場面を見ても見なかったことにしますー。(とはいえ例えばもし彼女が転びそうになったら西野は手を差し伸べてしまうだろうけれど、それとこれとはまた別問題として。――鞄から取り出している様子を見られていることに気づき。既に自分は楽しんでいるのだが、これらを使って彼女も楽しんでくれるだろうか?と思いながら。)必要そうなものを携帯で軽く調べて持ってきただけなのでそうでもないですよー。うーん…嫌いではないですけど、そこまで好きって程ではないですかねー。見てて綺麗だなぁと思う程度です。僕も話を聞いたらなんか見たくなっちゃって来た感じですし。(こくりと頷きながらそう言って。話を聞く限り彼女も自分と似たようなものらしい。詳しい人と見るなら色々わかって楽しいかもしれないが、わからない同士ならそれはそれでお互いに意見を言い合ったりして楽しそうだ…なんて。)そうですかー。僕もあんまり難しかった記憶はないので、二人合わせれば何かしらは見つけられそうですねー。…あ、失礼しました。1年の西野輝です。しえなさんって呼んでも良いですかー?(にこにこと笑みを浮かべながら名乗り、最後はこてりと首を傾げて問うた。)
よし、契約成立。破ったら…まあ、何か適当に仕返すってことで。(雑すぎて何の効力も持たなそうな罰も付け加えておいたが、まあ自分がそんな事にはならないだろうと何の根拠もなく高を括る女である。――彼が取り出した道具を一つ一つ興味深げに観察しながら、)そのひと手間だけで十分偉い気がする。私なら調べる手間すら面倒だと思うし…。え、そんな感じなんだ。私も同じ。とりあえず光ってるし高いところにあるし綺麗って思うぐらい。ま、珍しい星とか紛れ込んでるかもしれないし。あの星とか特に明るく見えるんだけど。君は気になる星とか見つかった?(と言いながら指差した先には誰の目にも明らかなほど分かりやすく光る星。もちろん名前は知らないので名無しの星の扱いだが。ついでとばかりに彼にも似たような事を質問。)たしかに、一人よりは期待できそう。1年の西野くん…まあ覚えた。ん?好きなように呼んでくれていいけど。律儀だね。(彼の名前を復唱しながら、こちらは相変わらず笑ってもいないが怒ってもいないような表情。丁寧に呼び方の是非を問うところが律儀だなと思ったのは本音だ。)
それは怖いですねー。何されるかわからないので気を付けますー。(と笑いながら言うのだから、彼女にも本心で言っているのではなく西野がふざけてそう言っているのは伝わるだろうけれど。)そうですかー?偉いっていうよりも、どうせ見に行くなら楽しみたいですし、そうやって調べる時間も楽しいので僕結構好きなんですよ。え、どれですか?(彼女が言う星はどれだろうか?指差す方向を探してみると特に明るく輝く星。恐らくあれだろう。と、視界の端に気になる光が、)僕はあの星が気になります―。ちょっと青みがかっていて。(と少し右手の方を指差し「何て名前ですかねー。とりあえずしえなさんが見つけた方は…」と教科書見ながら星座早見盤を空に合わせてみて。)
私どんなことするように見られてるんだろ。ま、常識の範囲内で仕返すから楽しみにしといて。(それが冗談だと分かっているからこそあえて緩く返すぐらいだし、そもそも元が極度の面倒くさがりなので仕返しすらも面倒くさいと放り出しそうな女ではある。)まあ、それも一理あるかも。何もなくても星がきれいに見えるもんだと思ってたんだけど…そのうち物足りなくなるものだね。あれ、あっちの一番よく光って目立ってる分かりやすいの。何て星か分かる?(と説明を付け足してより具体的に指差しながら、ついでに彼に星の名を問うのも忘れない。自分で調べようとしないあたり怠け者らしいというべきか。)あ、ほんとだ。普通のより青っぽい。よく見つけられるね。(そう感心もしながら、彼が合わせた星座早見盤を朝吹も覗き込む。そして「アルクトゥルス…だって。初めて聞いた。」と全く知らない星の名前にほうともはあともとれないような感嘆を落として。)
そうですねー…具体的には出ないですけど可愛らしい罰な気がしますー。(この掛け合いを楽しんでいるらしく、にこにこと楽しげな表情途切れさせず。)わかってもらえて嬉しいですー。物足りなくなったのなら、僕がこれを持って来た事にも意味があったようでなによりですー。僕としてもしえなさんと知り合えて良かったですし。(それには言葉以上の意味はない、西野は単純に友人が増えるのが嬉しいだけなのだ。――星座早見盤を見るも、彼女の方が先に星の名前を見つけたようだ。)僕も聞いたことないですー。小学校で習うような星じゃないのかもしれませんね。それで僕が見つけたのは…スピカ。あ、これは名前聞いたことありますよ。(知った名前が出てきて嬉しかったのか、珍しくはしゃぎながら子供の様な表情で手元の星を指差し「ここです、見てください!」と彼女の方に視線向けて。)