(今年の七夕は日曜日だった。それ自体は西野にとってはどうでも良い事だったけれど、7月7日が休日というのは少々問題だった。さてどうしよう?前倒しか後ろ倒しか…悩んだ末に、出た結論は――。『誕生日おめでとうございます。幸せな誕生日をお過ごしくださいね。あ、明日のお昼は教室で食べて頂けると助かりますー。』とメッセージを送信したのは7月7日の夜。もっと早い時間に送っても良かったのだが、眠る前にメッセージを見て意味に気付いた彼女が幸せな気持ちで眠ってくれれば良いな、なんて思いからである。そして翌日。昼休み開始から10分後、宣言通りに彼女の教室にやって来た西野の手にはコンビニのビニール袋があった。)志貴さん、こんにちは。遅くなりましたけど誕生日おめでとうございますー。(へらり笑って今度は直接祝福の言葉を口にする。そして徐にビニール袋差し出したのなら。)僕からのプレゼントですー。見た目に色気がなくて申し訳ないんですが。(お察しだろうが中身はアイス。コンビニでも買えるけれど、そこそこ値が張るあの有名メーカーのイチゴアイスだ。専用のプラスチックスプーンも勿論一緒に入っている。それを彼女が受け取ってくれたのなら、嬉しそうに笑って。)じゃあ、僕はちょっと用事があるので今日はこれで。(と微笑み向けてその場を去ろう。さて、渡したコンビニ袋の中身はアイスとスプーンだけではない。少し濡れてしまっているかもしれないが、赤いリボンで結ばれた小さな透明のラッピングバックも入っている。ゴールドのリボンの形をしたポニーフックは、彼女が水泳部だという事を知ったから。)

(7月7日。世間では七夕と賑わうこの日は御門家の末っ子の誕生日でもある。家族の誕生日には外食という習慣に倣い、本日の夕食はイタリアン。デザートにジェラートを食し、気分は上々。ご満悦で帰宅し、翌日から始まるテストに備えて早めに寝ようかとしていた頃にそれは届いた。『ありがと!ちょうど幸せの余韻に浸ってるとこ。パパが連れてってくれたお店のジェラートが神だった。ん、お昼ね。了解。全力待機しとく。』ポチポチと返信を打ってベッドに潜り込む。以前交わした約束というよりは要求に近いあれ。律儀に応えてくれようとする彼の顔が思い浮かんで、むふと口元が緩む。楽しみを胸に抱え込んで、そっと目を閉じた。)あ、来た来た。待ってたよ。私のアイスちゃん!(姿を現した彼を見つければ、おいでおいでと手招き。直接の祝福の言葉には「ありがとー」と顔をほころばせた。そして差し出されたビニール袋を仰々しく受け取れば、)ふは、アイスに色気が必要?有難くいただくよ。(ちらりと見えたお高めのイチゴアイスにだらしなく目尻がさがる。「流石、輝。好きなの覚えててくれたんだ」と表情は緩むばかり。)そう?わざわざ本当にありがとう。じゃ、また。(用事があると言う彼を引き留める理由もなく、改めて礼を伝えてから手を振って見送る。さて、では早速貰ったアイスを食べるべく袋から出したのだけれど)……なぁにが色気ないって?ちくしょう、あんじゃん色気。(少しひんやりとするラッピングバックから取り出したのはポニーフック。シンプルでありながらそれは可愛い。思いもよらないプレゼントに嬉しさとむず痒さが入り混じって、思わず机に突っ伏す。ごつん、とかいったけど気にしない。イチゴアイスは静かにゆっくりと柔く溶け始めていた――)