運命の相手を見極めるのって難しいよねほんと。

(休み時間の購買前。真剣な眼差しで腕を組む男が一人。)……おばちゃん、オレ……どうしたらいいんだろう。(シリアスな眼差しはどこか物憂げな雰囲気さえ潜ませて。そこだけいい感じに切り取れば儚げな美少年にも見えたかもしれないが、残念ながら話はもっと俗であり下らないものだった。)イチゴ牛乳にミルクティー…カフェオレも魅力的でオレには選べない……っ(くっと拳を握り演技じみた態度で悩ましげな様子をアピール。おばちゃんに「早く決めとくれ」と呆れられれば、)えーちょっと、おばちゃん今日ノリ悪くね?オレ結構まじで悩んでんだからさぁ。(などとのたまう軽薄な男。ノリの軽さは隠す気もないが、高校生の日常においてこんな些細な選択がある程度のウェイトを占めるのもまた事実だろう。さらに言えばこの男にとって、貴重な金銭を使う瞬間はいつだって真剣勝負なのである。これがお昼休みなら超絶邪魔な存在であるが、幸か不幸か今の購買はすいていた。)おばちゃん今何飲みたい?(参考にしようと聞いてみれば「昆布茶だね」と返ってきて思わず「しぶっ」と突っ込む。何ら参考にはならなかった。)えーマジで決まんない。どうしよ、目ぇ瞑ってこれ!ってやろうかな。(妙なゲーム性を思いつけば一度目を閉じて、)…いや場所覚えてるわオレ。だめだわ。(一人の限界を感じれば秒で目を開ける。うーんと唸りつつ、ちらっと目に入ったのは購買に用事のあった誰かか、通りすがりの誰かだったか、)あ、ねぇねぇ。一瞬協力してくんない?(人見知りのひの字も知らぬ男。人懐こい笑みを添えたまま、ちょいちょいと手招いて)

(休み時間、ふと思い立って購買へ。ふだんはマイボトルにお茶を入れてくる中村。今日も水出し麦茶を入れてきたのだけど、なんだか甘い飲み物がほしくなったのだ)……ふんふんふ〜ん(鼻歌を口ずさみ、今日はお嬢様結びにしている長い髪。歩くたびに、後頭部に結われたミントグリーンのリボンが揺れる。そうして上機嫌に購買の中へ入ると、ふと声をかけられ)……へっ?わたし…かなぁ?(きょとんとしながら自分を指差す。ただ、しっかり目が合っているし、間違いないのだろうと思って彼へ近づく。彼の気さくな笑顔に安心感を抱いているのと、中村自身、内気とはほど遠い性格をしている。なので緊張は一切していないけれど、何があったのか気になり、不思議そうに首を傾げた)どしたの?なにかお困りごと?(と、彼へ問いかけるのか)

(目があった女子生徒ににっこり笑みを注いで)うんうん、わたしわたし。(合っているよと頷いて手招いて。自分より下の位置にある、自分とはまた違った色合いの瞳を見つめれば)そ。超一大事だから、助けて?(愛想も調子も良い男は、同じくちょっとばかし首を傾げてお願い、もといおねだり。ふっと目元緩めて笑えば、「なんか和むねきみ」と勝手な感想をこぼしつつ)それがさぁ。こいつらのうちどれを選ぶかっていう究極の選択に迫られててさぁー。もう俺だけじゃ選べないっていうか…どの子も魅力的過ぎて…(実にくだらない一件を堂々と力説し、彼女に示すのはミルクティーとイチゴ牛乳とカフェオレの紙パック。購買のおばちゃんは無の表情で「早くしとくれ」とまた口にした。)でさ?目ぇ瞑ってこー、えいや!で選ぼうかと思ったんだけど。俺もう場所バッチリ覚えてるしさぁ。えーと、…あ、ごめん。何ちゃんだっけ?(名前を呼ぼうとして知らないことに気づいて。さらりと名前を聞いて、無事教えてもらえたのなら)和花ちゃん、なんか適当に協力してくんない?(ここまでつらつら喋っておいて最後は丸投げ。しかしにこりと浮かべる笑みは愛想良く)あ、俺3-7の藤堂ね。藤堂新。よろしくー。

(手招きしてもらえれば、人違いでなかったことに安心したように微笑んで)うんっ、いいよ〜!(彼に頼まれれば、こくっと快く頷いた。和む、と言われると不思議そうに瞬きをするものの、結局はいつもの脳天気な笑顔に戻るのだった)あ〜、わかるなぁ…。わたしも、どれにするか悩んじゃうんだよねぇ…。だからいつも、何にするか教室で決めてからここに来てるの。あみだくじするんだぁ…(彼の”おねだり”の内容を聞けば、深く同意するようにしっかり頷いて。中村にも覚えがある一件だったので、くだらないとは思わなかった。しかし、購買のおばちゃんに急かされると、たはは〜と困ったように笑おう)えっ、覚えちゃってるの?すごいなぁ…。あ、わたしは中村和花。3-5だよ〜(名前を聞かれるとそう名乗りつつ、協力して欲しいと言われれば、親指をぐっと突き出そう)うんっ、がんばる!…じゃあ、藤堂くん。わたしが代わりに目を閉じて、えいや!ってするね〜。わたし、そんなにはここに来ないから、うろ覚えだし…(どうかな?と言うように首を傾げて)

(朗らかに乗ってくれた彼女にはこちらも笑みを乗せて。不思議そうな瞬きにもふふと笑うのみ。)あ、わかる?話わかるねー。(なんて調子よく頷いていたものの、貴女の対策を聞けばなるほどと目を瞬かせるのはこっちの方。)あみだくじ。なるほど、賢いね。(しかもわざわざ教室でやってくるだなんて。くっと喉を鳴らして笑えば「用意周到だな」と面白そうに笑い。購買のおばちゃんには「まぁまぁ待ってよおばちゃん」と慣れた様子で宥め)覚えちゃってるよー。こういうところで無駄に記憶力発揮してんの。(冗談めかして口にしながら、)お。タメじゃん。(よろしくねと笑みを浮かべて。サムズアップされたその手に「頼もしいな」と笑えば、)よっしゃ。お、マジで?おっけおっけ、んじゃー和花ちゃんが運命の女神様っつーことで。(彼女の指差したそれを購入することに異論もない。ゲーム性が増した気がしてむしろ楽しそうにしながら、)よーっし、んじゃ、お願いします女神様!(パンパンと柏手さえ打って。さぁ朗らかな運命の女神は、この男に何を与えてくれるのか。)

賢い、かなぁ?ただ優柔不断なだけだよー。あ、でもね、あみだくじ楽しいよ〜。何が出るかな〜ってわくわく感が…。(彼が面白そうに笑ってくれたことが嬉しくて、にこにこと笑顔を崩さぬまま。しかし、脳天気すぎたかなと我に返れば、不安そうに彼を見上げ「…わたし、変かな?」と。おばちゃんをなだめている彼に同調するように「はいっ!わたしがすぐに決めますので!」と便乗して)本当だねぇ、よろしくね!(にぱっと笑ったなら、)藤堂くんが納得する結果になればいいんだけど…(と、ちょっとだけ緊張したような顔つきになる。だが、すぐに気合いを入れたように)…よぉし、いっくよー!(目を閉じて、びしっ!と指差したのは――カフェオレである)

(能天気と自称する彼女を見るグレーの瞳は柔らかなまま。だから問いかけられたなら、)いいや?ぜんっぜん、変じゃない。(にこりと笑みを乗せ、見上げられる視線をしっかり受け止めて返すのはさっぱりと。迷う暇など少しもなく断言すれば、不安げな瞳は和らいでくれるだろうか。「毎日に楽しさ見つけられるのは、むしろトクベツなことだよ」と、貴女の才能を褒め称えようとさえ。隣の頼もしい発言には思わず笑い、「だってさーおばちゃん」と流し目ににんまりとして。)いやぁ、可愛い子に選んでもらったら何でもいーけど、(とさらりと軽い発言で戯れながらも、彼女が指差す折には特に中身もないのに両手を合わせ祈りのポーズ。むむっと念じるように見守って、)おぉ……!(まるで神の啓示でも見たかのような感嘆。恭しくカフェオレを手に取れば)おばちゃん、これで!(と選ばれしものを差し出す。くるりと顔を貴女へ向けては、「和花ちゃんは?何か飲む?」と。儀式の礼にご馳走しようというスタンスは、何か選びなよと示すような態度と、差し出す片手で示されるか。)

(変じゃない。そう言ってくれた彼に、ふにゃんと表情を和ませる。小さな不安だったけど、それをきっぱり否定してくれたのが、嬉しかった。むしろ褒めてもらえたら、にへへーっと照れ笑いのような表情を浮かべ「そっか…そっかぁ〜、それは、誇りに思ってもいいかもって思っちゃった!…ありがとう、藤堂くん!」と、弾けるような笑顔と共に、感謝の言葉を。にんまりとおばちゃんを見やる彼に対して、おばちゃんはどう反応したのだろう。どちらにしても中村は、えへへーと間の抜けた笑顔を浮かべているのか)んま〜、お上手だねぇ、藤堂くん!(彼の言葉に、なんだかおばちゃんみたいなリアクションをとりながらも満更ではない気持ちで。――彼の飲み物が決まったなら、「へへ、藤堂くんのお役に立てたなら光栄であります」と、びしっと敬礼。そこで、彼に飲み物を選ぶように片手で促されれば)…へっ?…あ、…じゃあ、ミルクティー!(驚いたように目を丸くするものの、自分の飲みたいものはしっかり答えるのだ。目だけは遠慮がちに”いいの?”と窺うように)