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(藤棚の下で青空へ手を伸ばしたら―)
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(10連休という長いGWの穏やかに晴れた日。ウエストをベルトで絞めボタンが一列にフロントに並んだシンプルなカーキの七分袖のワンピースに身を包み、トートバッグを持った宮元は季節折々の花が見れるという鵯神社へ足を運んだ。被ってきた帽子は鳥居前で脱ぎ鞄に仕舞い参道を歩けば、季節の花が綺麗に咲き誇り、何時もよりもゆっくりと歩き一つ一つの花を愛で、時には足を止めしゃがみこんでじっくりと眺めたりと、若干不審人物に近い動きは宮元にとっては通常運転である。時間をかけ花を楽しみ、作法に則り神社に参拝して境内をのんびりと散歩する宮元の視線の先には藤棚が見えた。薄紫の花が葡萄のように連なり長く垂れさがり、その下にベンチも見つけ、)いい場所を見つけました。(弾んだ小さな声が漏れにこりと笑みが零れる。藤棚の下へ行き、ベンチに座り空を見上げれば藤の薄紫の隙間から青空が見え、木漏れ日が気持ちいい。嬉しそうに頬を緩め両手を伸ばし、ぐっと伸びをしたときに何かが指先にちょんと当たった気配。)あ…。(とっさに見上げた先には宮元が黒いブンブンと勝手に呼んでいる、大きなクマバチ。藤の下によく飛んでいるが何もしなければ害はない―けれど当たってしまった。とっさに身をかがめトートバッグから帽子を取り出し深く被る。しばらくそうしていれば羽音は遠ざかり、聞こえなくなった。)大丈夫…かな?(恐る恐る身を起こし帽子を押さえながら見上げる姿は不審者そのものだろうか。)
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(小学校低学年の妹が花を見たいと言い出したので、面倒ながらも重い腰を上げた、GWのある日。天気にも恵まれて参道を歩くご機嫌な妹と、グレーのスウェットトレーナーに黒のワイドパンツとゆるい装いの黛。花の元へ駆け寄っては「きれいー!」や「かわいい!」と連呼する妹に「んー、そーだねー。」と生返事。そんな調子でお散歩していたが、藤棚の所で少女がいることに気が付いた。大型連休中に鵯神社に訪れる人は決して少ない訳ではないけれど、彼女に目が行ったのは多分見たことのある人だから。近隣のクラスの生徒だったはず。お花見で忙しい妹はそのままに、ベンチにそっと近寄って、)ねー、なにしてんの?(体制を低くし深くかぶった帽子を押さえている、この不思議な状況が純粋に気になって、ポケットに両手をつっこみ正面から見下ろすように声を掛けてみた。)
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(恐る恐る体勢を元に戻しつつある状態で声を掛けられれば、自然と上目遣いで目の前の人物を見ることになってしまうのは仕方ないだろう。)え、何って…大きな黒いブンブンが……いない、みたいですね。(平然と立っている彼に警戒しつつも周りを見渡せば蜂の姿は見えず、どうやら蜂は怒りもせずにどこかへ行ったらしい。体勢を戻しつつ帽子を取り背筋を伸ばしてほっとして一つ息を吐きだして、)この藤棚の下でのんびりしようと思ったらうっかり黒ブンブンに触ってしまって、動かないほうがいいと思ってじっとしていたんです。……ええと、同じ学校の人、ですよね?私は1年4組の宮元鈴樹です。鈴、と呼んでいただけると嬉しいです。(彼の問いに答えを返し暫し彼を見つめ、宮元も彼を校内で見掛けた覚えがあったので、何時ものように軽く自己紹介をした。)
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(黛を見上げる彼女の顔を見て、やっぱり見たことのある人だと確信。発せられた言葉に首を傾げ)黒いブンブンー?(その言葉が一瞬、何を形容しているのかわからず、ただ不思議そうにしていたが、じっとしていたと聞けば蜂のことかと理解したようで。)そっかー、なんもなくて良かったねー。刺されるとやばいらしいし?(やわく微笑むと断りもせず隣に腰を下ろして、続く彼女の言葉は藤棚を見ながら受ける)…そーだね。こうやって実際に話すのは初めてだけど、たまに学校で見かけてた…と思ったら、隣のクラスなんだー。道理でよく見ると思った。あ、俺は5組の黛龍海ね。呼び方はなー、とりあえず今は宮元さんって呼ぶよ。あだ名呼びはまた今度なー。(基本的に女子生徒は苗字呼びで、ある程度仲良くなったら名前なりあだ名なりで呼ぶことにしており、そのスタンスは崩さない。そこまで伝えると視線は藤棚から空へ)あー、いー天気。あ、そういや宮元さんも花見しに来たん?(うーん、と両手を挙げて伸びをした。)
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あ、黒ブンブンは蜂です。クマバチっていう黒くて大きくて、羽音も大きな蜂なので、勝手に黒いブンブンって呼んでるんです。(広い藤棚の下、少し離れた場所を飛んでいるクマバチに視線を向けつつ首を傾げた彼に説明をしたけれど、彼が気づいたのが先かもしれない。)はい、刺されなくて良かったです。雄だったのかもしれませんね…クマバチの雄は刺さないので。刺されると大変なことになる蜂もいますからね…。(微笑んだ彼に宮元も微笑み返し、隣に座った彼を違和感なく受け入れていた。)私も時々見かけると思ってましたが…お隣のクラスだったのですね。(隣のクラスだったのに今まで気づかなかったことに「気づかないものですねぇ…。」とくすりと楽しげに笑って。)黛くん、ですね。あ、はい。名前だと紛らわしいですけれど…苗字でも大丈夫です。呼んで貰うには親密度を上げないとですね…と言うのは冗談ですが、黛くんの呼びやすいようにしてください。(あだ名は提案はするものの強制ではないため、彼の言葉に了承の意を込めてこくりと頷いて。)本当にいいお天気ですよね…。はい、この神社は四季折々の花が咲くって聞いたのでお花見に来ました。春の花があちこちで咲いていて綺麗でしたよ。私も、ってことは黛くんもお花見ですか?(彼の言葉に気になることがあれば小首を傾げ問いかけて。)
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あー、クマバチね。知ってる知ってる、もふもふした奴だー。(スズメバチを想像していたが違ったらしい。男子にしては、虫の知識は少ない方だけれど、クマバチくらいなら知っていた。ただ、見分けが付くだけなので彼女から告げられたクマバチの知識には感心したように)へー、オスって刺さないんだ、知らなかった。針が無い感じ?それか刺したら抜くときに体がちぎれちゃうから、とかー?(どうやら黛よりも彼女の方が蜂についてはるかに詳しそうだったので、素朴な疑問を投げかけてみて。)あー、やっぱり?4組には卓球部の人以外で知り合いいないから遊びに行くことも無いし、そーいうもんなんだろーね。(その卓球部の知り合いですら顔見知り程度なのだから、隣のクラスといえどその程度なのだ、きっと彼女もそうなんだろうな、と思いながら。)えっ、好感度?宮元さんって見かけに似合わず変な事言うんだなー(ぷぷ、と笑っては「俺ちょろいから親密度はすぐマックスになると思うよー」と冗談に乗っかって)こんな日は家でゆっくり昼寝に限るんだけどなー。やっぱ花見か。なんかわかるわー、宮元さん花とか好きそうだし。花愛でる系女子っぽいよねー。(伸びをしたら今度は背中を丸め猫背になって、隣へ視線を送るとイメージ通りだったことを伝えて。同じ質問を受ければ「んー、」と少し唸ってから、)俺はお花見ってゆーか…お花見の付き添い?(へらりと笑えばさっきから視界に入っている水色のワンピースを着たミディアムヘアの少女を指差して)あれ、俺の妹なんだけどさー…花見したいってうるさくてさ。まーでもたまに花見んのも悪くは無いね。(小生意気にもスマホで写真を撮りだした少女の姿は真剣そのもので、黛のことも忘れてしまったのではないかと思えるくらいで。)
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もふもふ…確かに見た目はもふもふですね。(黒くて丸っこい。宮元としてはころんとした印象だけれど、もふもふと言われればそう思えて納得して。)藤棚の下によくいるので調べたことがあるのですが、雄は針が無いそうです。花の蜜に夢中って思うと可愛うんですが、雌だと刺激すると怖いのでちょっと警戒しちゃいました。(彼の質問に答えながら先ほどの自分の行動の言い訳をして、肩を竦め小さく笑って。)黛くんは卓球部なんですね。私もあまり知り合いが多いほうではないので、5組は園芸部の方がいれば顔を知っている程度だと思います。(園芸部は好きな人は頻繁に顔を出すが、幽霊部員も多いし、広い学園内で活動場所が違えば話すことも少ないだろう。)そうですか?乙女ゲームとかで遊びますし、恋に恋する乙女なんです。(自分で言っていれば世話無いが、冗談で返してくれた彼にきょとんと一度瞬き「じゃあ、親密度上げるの頑張っちゃいますよ?」と言葉遊びのように告げ、くすりと悪戯気に笑って。)お天気も良くて爽やかですし、お昼寝も気持ちよさそうですね。ふふっ、予想は当たっていましたか?花は愛でるのも育てるのも大好きですよ。見ていると癒されますし、励まされます。(花が好きそうに見えるのは宮元にとって嬉しいので、彼の視線を受けにこりと嬉しそうに笑って。)付き添い…あ、妹さんですか。(彼の指さした先に視線を移した後に納得し、微笑ましく見つめ頬が緩んで。先ほどから水色のワンピースの少女は時々視界に入っていて、花に夢中な様子が可愛らしいと思っていたし、自分も花が好きなので親近感を勝手に抱いていた。彼に視線を戻し、にこりと笑って、)可愛い妹さんにお付き合いして、黛くんは優しいお兄さんですね。ふふっ、お花に癒されますし、妹さんの嬉しそうな様子が見れて一石二鳥なんじゃないですか?(再び視線は花に夢中な彼女へと。花に夢中なのはいいけれど、危なくないかとなんとなく見守ってしまっていた。)
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虫だからちゃんと見るとグロいけど、遠くで見るとちょい可愛いよねー。あー、針自体無いんか、じゃー心配ないね。けどメスだけが刺すってことは、クマバチ社会だと恐妻家が多そうだなー。(刺されるのは怖いし痛い、出会った時に不自然な体制をとっていたのも無理はないと納得して。)まー卓球部って言っても?月に一回活動するかしないかだけどね?宮元さん園芸部なんだー、5組に園芸部なんていたっけな?(黛自身がほぼ幽霊部員なので、クラスメイトと部活動の話なんて殆どしたことが無かった。誰が何部なのかさっぱりなので、共通の知り合いを挙げることも出来そうにない。そもそも園芸部というものの存在を、今初めて知ったというのは秘密にしておき。)宮元さん乙女ゲームやるんだ。じゃー百戦錬磨じゃん。でも恋に恋する乙女なんて普通自分で言わないだろ、宮元さんってやっぱおもろいなー。(悪戯っぽく笑う彼女に、「おー頑張れがんばれ、ヌルゲーすぎて詰まんないかもだけど」と同じように笑いながら返し。)あーやっぱり。愛でるの好きは予想通りだけど、育てるの好きはちょい珍しいよな、やっぱ女子は無視嫌いが多いし手荒れとかヤバそうだし。雑草取りとか水やりとかめんどそう。(見るのは好きでも育てるのはちょっと…という女子は少なくないと思う、女子では無いが黛もそうだ。園芸部というのだから彼女は苦ではないのかもしれないが。)そう妹。誰に似たんだかマセててさー、インスタに写真あげるんだーとか意気込んでんだよ。(指差した手を降ろして、呆れ顔で脱力気味に溜息を。渋々連れて来ただけなのに優しいだなんて言われれば、むず痒くなってしまう。少し照れたように頬を染めて、ふいと視線を外し)ちょ…やめてよ宮元さん、俺別にシスコンとかじゃないからね?別に妹が喜んでるから嬉しいとかないから。(妹はまだ小学生だが黛と比べてしっかりしている、一応視界には入れているけれどまず問題は無いだろう。)
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丸っこいフォルムだからでしょうか…。巣と自分の身を守るためらしいですから、恐妻家というより、家庭を大事にする、という感じでしょうか?(視線を移した先は広い藤棚の下、少し離れたところにいるクマバチで、考えながら小首を傾げた。)あ、そうなんですね。はい、毎日学園内のどこかで花をいじっています。私も部員全員を把握してませんし…クラスメイトの部活も話さない人は分からないですよね。(宮元は交友範囲は広くはないし、異性と話すことはもっと少ない。どちらかというと女子が多い園芸部員を彼が知らなくても当然と思われて。)少しですが遊びますよ。百戦錬磨どころか、残念ながら失敗のほうが多いです。んー、そうですか?恋をしている人を見ると幸せそうでいいな…って思うので、ちょっと憧れます。(恋に恋する理由を少し悪戯な色を宿した声で伝えるのは、事実を話すのは少し恥ずかしく誤魔化すためで。季節の花を見に来たのか、神社にお参りに来たのか、仲が良さそうに歩いている恋人同士に視線を移し、穏やかに目元が緩んだ。ヌルゲーだという彼に「頑張るので、また会った時にはよろしくお願いしますね?黛くんと話すの、楽しいですし。」と言葉遊びの中に真実を混ぜ楽しそうに笑って。)私も虫も得意ではないですし、手荒れもそれなりにありますが、手を掛ければ応えてくれるように綺麗な花が咲いたり、成長を見ると癒されるほうが大きいので好きなんだと思います。(花を育てる環境の彼の見解は正しい。けれど宮元はやはり好きだから苦にはならないのを少し考えながら彼に伝えて。)女の子は成長が早いですからね。インスタをされているんですか…凄いです。(あまり機械には強くない宮元は、SNSには詳しくないので感心した様子で彼女を見つめて。)ふふっ、シスコンとは思いませんよ。優しいなって思っただけです。いいですね、きょうだいがいるのは…楽しそうです。(彼の少し照れたような様子を見て、同じ学年の男性に失礼かもしれないけれど可愛いと思ってしまい、彼が視線を外しているのをいいことに目元を緩め彼を見つめて。視線を彼の妹に戻しやはり見守るような気持ちのまま穏やかな声で呟かれた。)
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そーかも、丸い生き物って可愛いイメージあるしねー。あーなるほど。外では敵と闘う戦士で、家庭内では優しいおかんかー。てゆーか子孫を残すのも外敵と闘うのもメスなら、オスのクマバチは何してんだろー。だらけてんのかな、俺みたいに。(手を口元に当ててぷぷぷと軽く吹き出し。)そー、だから卓球部だけど卓球は超下手だよ、もしかしたら宮元さんのが上手いかもなー。…って、全員把握できないくらい園芸部って人いっぱいいんの?え、乙女ゲームで失敗ってバッドエンドってこと?まーでも相手の好きそーな選択肢を見極めるとか普通にむずいだろーな、ゲームでも現実でもさ。恋してる人が幸せそうに見えるのはどうだろなー…片想いの相手に恋人いたりするとめちゃつらだと思うけどなー。(彼女の視線を追った先、男女に黛も同じく視線を送る。見ているものは同じなのに、彼女とは全然違う事を考えているんだろうな、と客観視しては曖昧に笑って。「そ?んじゃ学校で見かけたら声かけるわー。」話すのが楽しいなんて言われれば話掛けないわけにはいかないと、笑いながら応えて。)あー、苦労する分達成感が凄い的な?なんかもーそこまで来るとあれだ、趣味を通り越して生き甲斐だな。(嫌なこともあるだろうけど、それ以上に好きな理由があること。彼女の意思が感じられるような口ぶりに、凄いような羨ましいような感情をおぼえて。)ほんとそれ、俺が小学生の頃なんて唯のクソガキだったよ。インスタやってるけど、アカウントは親のを使ってるらしーよ?俺は興味ないからよくわからんけど。…え、そ、そー?まーこれでも兄だから多少は面倒見ないといけないしねー。(恥しさから視線を外していたから彼女に見詰られていたなんて露知らず。そうこうしている内に、写真撮影に満足したのか「お兄ちゃんそろそろ帰るよー」声を上げて妹が手を振っている。)帰るよー、って、あいつは俺のおかんかよ。(苦笑を浮かべて立ち上がると、彼女へと向き直って)んじゃ、俺はもう帰るなー。宮元さん、また学校で。(にこっと笑って手をひらりと振れば、花壇で待つ妹の元へと向かうのだった。)
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強いお母さんですよね。雄は食料を集めているので…亭主元気で留守がいい、でしょうか?(雄のクマバチの役割を考えてぽんと浮かんだのが、どこかで聞いたことがあるような古いようなフレーズで。「おおらかなんですよ、きっと。」と笑う彼にくすりと笑って。)そうなんですね…いえ、私運動神経鈍いですし球技…と言うか道具扱うものは特に苦手なので、黛くんのほうが上手だと思いますよ?活動場所が違ったり、幽霊部員の方もいるので…私が把握出来ていないだけかもしれませんけれど。何も見ないで遊ぶと同性と友情エンドとかノーマルエンドが多い感じですね。そうですね…相手とよく話さないと分からないことも多いですし。あ…片想いは、辛い、かもしれませんね。(言葉少なに返し、恋人同士から彼へと視線を移したのは、彼の言葉から彼がそんな想いをしているのだろうかと想像したからで。学校での話になれば「はい、宜しくお願いしますね。」と嬉しそうに笑い返して。)確かに生き物が相手ですし、達成感はありますね。…確かに生き甲斐かもしれないです。植物が無いと息が詰まる感じがしますから。(彼に言われ、少し考えてから確かに、と納得してこくりと頷き、それほど好きなのだと改めて考えて。)私も小学生の頃はのんびり過ごしていたので人の事を言えないですけれど。なるほど、ご自分のとは違うのですね。…私もよく分かってないですけれど。はい、やっぱり優しいお兄さんです。(誤魔化す様に紡がれる言葉にも彼の兄としての責任感のようなものを感じて、微笑ましく思い目元を緩ませながら彼をこっそりと見つめて。帰るよーとの言葉に、宮元も少女へと視線を向けて、)ふふっ、しっかりした人になりそうですね。(くすくすと笑いながら彼が立ち上がれば宮元も立ち上がって、)はい、声を掛けていただいてありがとうございました。黛くん、また学校でお会いしましょうね。(彼に小さく手を振り返し妹さんと合流する姿を見送って。再び藤棚の下のベンチに座れば改めて藤棚を見上げて。爽やかな風が藤の花房と宮元の髪を揺らし、彼との楽しかったひと時を思い出し頬は緩んでいたー)
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