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(4月19日の放課後。クラスメイトも帰り人気のなくなった教室に、部活を終えた宮元はこっそりと帰ってきた。自席の鞄から小さな和柄の巾着を取り出し、向かった先はクラスメイトの優しい彼女の席で。机の中に忍ばせようと思ったのだが、人様の机の中に入れるのは躊躇われるのでちょこんと机の上にそれを置いて。和柄――黒地に桜模様――の巾着の中には、薄い青地に白く小さな梨の花がいくつも散りばめられたシュシュが入っていた。4月20日の誕生花である梨の花は小さく可憐で花言葉の『和やかな愛情』も彼女に合っている気がして選んだものである。添えられた白地に周りに蔦模様のあるメッセージカードには「雪野さんへ お誕生日おめでとうございます。先日はノートを貸していただきありがとうございました。とても助かりました。クラスメイトですしこれからも宜しくお願いいたします。 追伸:返却は何時でも受け付けています 宮元鈴樹」と書かれていた。ミッション完了とばかりに満足そうに微笑み、自席の荷物を取り教室を後にする足取りはとても軽いものだった――)
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(4月20日、朝。登校した雪野を待っていたのは、小さな巾着だった。きょとんとしながら手にとってみると、おしゃれで雅やかなデザインをしている。どうしてここに、こんな可愛いものが…?と首を傾げつつも、とりあえず開けてみることに)…わぁ…!(入っていた可愛いシュシュ。次に、一緒に入っていたメッセージカードを読む。そうすると贈り主さんが、どんな想いでいてくれたのかが、わかったような気がした。じぃん、と感激しながら、手の中にあるものをひとつひとつまじまじと見て。やがて予鈴が鳴れば、大事そうにそれらを仕舞うのだ。シュシュにちりばめられているのが梨の花であること、そして、梨の花が雪野の誕生花だということを知ったのは、昼休みのこと。彼女がお花が好きだということを思いだし、何か意味があるのだろうと感づいて調べてみたのだ。――大切に使わせてもらおうと、心から思った。翌日以降、体育の授業で時々シュシュを使わせてもらっている姿が確認できることだろう)
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