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(ホワイトデーから1ヶ月が過ぎた4月14日の朝。この日はオレンジデーとも呼ばれるそうだが、己にとっては1か月遅れのホワイトデーである。日曜日なので人数は少なく閑散としている中、教師との進路相談のために学園へ訪れていた、傍らには先月園芸部の後輩から頂戴した贈り物のお返しを用意して。教師との面談の末、足を運んだのは1年5組の教室。誰もいない教室で壁に貼ってある座席表を確認し、彼女の席にライラックカラーの紙袋を置く。中にはピック刺しにしてカラースプレーをトッピングしたチョコレートマシュマロ。そして白、ピンク、黄色のミニバラをモチーフにした入浴剤。入浴剤の箱には桜のポストイットが張り付けられていて『鈴へ 先月はありがとう 白石』と控えめな字で綴られている。彼女がこれを見るのは翌日になるだろうか、無事に彼女の手に渡る事を願って。)
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(4月15日の早朝。用事があり早い時間に登校した宮元は用事を済ませてから園芸部に顔を出した。入学式の時に壇上で飾られていた花を校長室に飾っていたがそろそろ処分するという話を聞き、まだ救済できる花をいくつか貰い部活後まだ人もまばらな時間帯に教室に戻り、自席に鞄を置こうとしたところでライラック色の紙袋に気づいた。これからの時期いい香りのする可愛らしい花を思わせる色の紙袋に覚えはなく、とりあえず荷物を置き、花瓶に花を飾りながら考えたのは今日は何か特別な日だっただろうか、ということ。でもまだクラスに登校した生徒の気配はなく、おそらく自分が一番早いだろう。そうなると休日前か休日中に置かれている可能性もあり、数日のことを考え思い浮かんだのは、愛を確かめ合う日ともいわれるオレンジデーではなく、バレンタインデーもホワイトデーにも何もなかった人たちが迎えるというブラックデー。友人が冗談交じりで何かを置いたのか、それとも間違いか――ぐるぐると考えながら無事に花を飾り終えると、確かめるために心の中で失礼します、と謝罪しながらライラックカラーの紙袋の中を確かめた。)……え?(添えられた桜のポストイットを見つけ思わず声が漏れ、ぱちり、驚きで一度瞬いた。先月彼にプレゼントを贈ったのは、話して貰えたお礼とバレンタインデーに何もできなかったからそのお返しイベントに託け何かしたかったから、という自己満足に過ぎず、受け取って使って貰えただけで充分嬉しかったのだ。まさかお返しが貰えるとは思っておらず、彼の律儀な性格と優しさに嬉しくなり誰もいないのをいいことにライラックカラーの紙袋を大切そうに胸に抱え、満面の笑みを浮かべた。誰にも見つからないように大切に仕舞い込み、その日一日をどこか落ち着かない、そわそわした気持ちで過ごし放課後になれば園芸部で先輩でもある彼を探して。出会えたのならば、)白石先輩、ありがとうございました。すごく嬉しかったです。(主語が抜けていたけれど、彼には伝わるだろうか。もし、会えなければぐるちゃで同様の旨を伝えるのだろう。その日の夜にチョコレートマシュマロのカラフルな見た目と美味しさに自然と頬が緩み、使うのはもったいないけれど、可愛らしいミニバラモチーフの入浴剤を使えば、その香りと心地よさにスポーツテストの影響でわずかに残っていた筋肉痛も癒され幸せ気分でバスタイムを終えた。次の日彼に園芸部で会えたなら、マシュマロが美味しかったことと、箱を開けミニバラモチーフの入浴剤を見た時の可愛らしさと香りに癒されたこと、筋肉痛もすっかり良くなったことを喜色の混じった声で報告し、再度のお礼の言葉も忘れずに伝える事だろう。)
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