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(昼休みの裏庭、悠々とベンチを独占。)
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(スポーツテスト、それは小学生の頃から馴染みのあるもの。前よりも良い記録をと気合が入っていた時期もあったが、御門の場合それは年々と沈静化していった。今となっては、己が定めた基準をクリアすれば良しとしている。それでも狙うのは評価A。全種目を平均以上にこなす必要はある。動けば少し汗ばむような陽気のなか、午前の部は順調に終えることができ、現在は昼休憩である。昼はどうするとの友人の誘いは、コンビニに行くからと断って堂々と校外へ。そして何食わぬ顔で袋を下げてやってきたのは裏庭のベンチだ。そのど真ん中に座ると取り出したのは)運動の後のアイスは格別ね。(本日発売の春限定アイスである。少々値段が張るものではあるが、払う対価は十分にあるものだ。ご飯を食べる前にアイスを食するわけだが、御門にとっては大したことではない。嬉々としてアイスにスプーンを突き立てて、楽しみを口にするのだ。)
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(運動が苦手な雪野にとってスポーツテストは憂鬱だったが、それでも一生懸命午前の部を乗り越えた。そして、昼休み。いつも食事を共にしている友人が今日は食堂で食べるとのことで、手提げかばんを持って裏庭へ向かう。ささやかで静かなその場所は、時間がゆったりと流れていく感じがして気に入っていた。裏庭に足を踏み入れると、そこには先客がいた。背が高く綺麗な顔立ちをしている彼女は、上級生だろうか。何かを食べているようだ……と、何気なく彼女の手にあるものを見て、)あ…!そのアイス…(思わず、声を上げてしまった。ぱっと口をふさぎ、あわてて後ずさる。嬉しそうに食事をしていた彼女の邪魔をしてはいけない、そういう思いからその行動に出たのだが、雪野が後ずさった方向には小さな段差。つまずきかけて、再びあわあわしながらバランスをとる。――気づかれてしまっただろうか。申し訳ない気持ちになりながらも、ちらりと彼女の様子を伺おう)
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(口に広がるフレーバーに相好を崩し、幸せ気分に浸っていればどこからか聞こえてきたアイスという言葉。何ともタイムリーな単語に耳聡く反応し、声のほうを見てみればそこには小柄な女子生徒がいる。と、認識したところで何故か彼女は後ずさりをし、何かに躓いたように見えた。思わず反射的に手にアイスを持ったまま腰を浮かしかけたが、どうやら上手くバランスをとったようである。とりあえず良かったと座り直し顔を上げた瞬間、ぱちっと彼女と視線が合ったような気がした。)……このアイスが気になるなら、おいで。(緩く笑みを浮かべれば、招くようにスプーンを持った手を振る。そして、ずりずりと尻を横にずらしてベンチのスペースを作る。後は彼女の意思次第とばかりに視線をアイスに戻せば、次の一口を運ぶ。ピンクと白の鮮やかなマーブル、ライチとラズベリーの爽やかな味が溶けて消えていく。)
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(彼女と目が合えば、申し訳なさそうに眉を下げる。しかし様子を伺っていた雪野へ届いた反応は、優しいものだった。お弁当が入ったトートバッグを抱え、おずおずと近づいて)お邪魔しちゃって、ごめんなさい。…そのアイス、今日から発売の、ですよね?……母が楽しみにしていて、帰りに買って帰ろうって、前から思ってて。それでつい…(緊張のためおぼつかない口調になったが、声をあげた理由を説明する。そして、ぺこっとお辞儀をしよう)…でも、…せっかく場所をくださったので。失礼します…(彼女が位置をずらしてくれたおかげで空いた場所へ視線を送ってから、ふわりとはにかむように微笑んだ。そして、スカートを押さえつつ彼女の隣に腰掛けるのだ)……そのアイスは、食後のデザートですか?
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(先程よりも近くなった声に視線を上げ、改めて彼女を見る。大人しそうというか、控えめというか。小柄なこともあいまって、どことなく庇護欲を掻き立てられそうな子だと目を細めて。)うん、そう。コンビニで売ってるやつ。きっとお母さんの期待は裏切らないと思う。ぜひ買っていってやんな。(アイスに反応した理由を知り、なるほどを頷く。彼女の母親もアイス好きなのだろうか。したり顔で買って損はないと太鼓判を押しておこう。それから傍目には無事に見えたが一応「さっきは危なかったね。大丈夫?」と気にかけてみて。)ん、どうぞ。(アイスを口に放り込みながら鷹揚に頷く。やっぱり美味しいと機嫌を上昇させていれば、彼女から問いかけられ)いや、ご飯はまだ食べてない。好きなものは先に食べたいんだ。食後のデザートは別にあるしね。(傍らに置いていたサンドウィッチが入ったコンビニの袋を上げ、彼女に見せながら横に首を振る。言うなれば、このアイスは食前のデザートあるいは間食といったところ。食後のデザートにはプチカップケーキがある。)あんたはもうご飯食べた?(顔だけを彼女に向けて尋ねてみる。バッグを抱えて裏庭にいるということは、己と同じように昼食を食べにきたかもう食べ終えたかと予想するのだが。)
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…はい…!…私は…ライチとかベリー系のアイスはあんまり食べないんですけど…すごく気になるので、母と一緒に食べてみようと思います(彼女が太鼓判を押してくれるので、嬉しそうに大きく頷き、握りこぶしをつくる。朗らかな彼女の物腰に、雪野の緊張は少しずつ緩んでいった。――コンビニで売ってるやつ、という彼女の言葉に一瞬”あれ?校舎を抜け出したのかな?”と思ったが、胸の内に留めておいた)あ…それはわかります。好きなものって、早く食べたくなりますよね。こう…お腹が空いているときに食べた方が、おいしさが倍増する気がして(彼女の言葉に同調しつつ、甘いものが好きな人なんだろうなあと和んで。自身のことについて尋ねられると、ふるりと首を振り)いえ、これからです。ここに、ご飯を食べにきたので…。……私も、いただきます、です(と、お弁当箱をぱかりと開けた。色とりどりのおかずとわかめご飯が詰まっているお弁当を前に、手を合わせよう)
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へぇ。じゃあ、あんたがよく食べるアイスは?どんなのが好き?(食べてみると頷く彼女に満足気な笑みを見せ、ひとつ質問をしてみよう。アイス好きを称する身として、他人の好みは気になるものである。)お、分かってくれる?嬉しいな。早く食べて美味しい!幸せ!ってなりたいんだよね。それに、今日は午後もあるから回復しとかないと。(理解のある言葉に頬を緩ませ、また一口アイスを運ぶ。午前中に持久力や瞬発力を試されるテストを終えているとはいえ、午後も残っている。一応、運動部ということで体力は問題ないが、空腹では気力が欠けてくるもの。アイスが食べたかったという気持ちが強いものの、好きなものを食べて午後に備えようという狙いもあって。)そうなんだ……わぉ、美味しそうなお弁当じゃん。お母さんの愛情弁当?(どうやら昼食はまだだったらしい。どれどれと無遠慮に覗き込んで見たそれはとても美味しそうだ。思わず目を輝かせて、口に出してしまうが)……あ、勝手に見てごめん。ちょっと図々しかったな、うん。私、2−2の御門志貴。ご飯、一緒させてもらうね。(見知らぬ相手に行き過ぎた行為だったかもしれないと反省。食べ終えたアイスのゴミを片付けたならば、昼食たるサンドウィッチの包みを開けて。)
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バニラとか、抹茶が好きです。ついつい、そればっかり買っちゃって(彼女から質問されれば、ふわりと柔らかくはにかみつつ、そう答えた。最後の方はちょっと恥ずかしそうにしつつも、「だから、今日は新鮮な気持ちでチャレンジできそうです」と付け加えよう)はい…おいしいものを最後のお楽しみにする、っていう手もありますけど…早く食べたいって、そわそわしちゃうんですよね(ふふ、)そうですよね…まだ残りのテストがあったんでした…。…午前中はなかなか結果が出せませんでしたが、お昼ご飯を食べて元気出して…少しでも記録更新したいです!(彼女の言葉で残りのテストを思い出すと、最初は憂鬱そうに肩を落とすものの、すぐにぐっと握りこぶしをつくる。「…この卵焼きに、元気をもらいます…!」と、お箸で卵焼きをつまんでぱくっと一口)あ…共同作、なんです。いつも一緒に、料理をしてて…(彼女に褒めてもらえると、嬉しさと照れで頬を赤くしつつ答えて)いえ…全然、気にしないでください。…私は、1−4の雪野梢、です。…改めて、よろしくお願いします。御門先輩(自身の弁当に興味を持ってもらえたのは嬉しかったので、ふるりと首を振って微笑みつつ、自身も名乗って。彼女にはにかむように笑いかければ、共にランチタイムへ)
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ああ、分かる。私はストロベリーが好きなんだけど、新しいお店を開拓する時とかも選んじゃうんだよね。そういや、渋谷に超濃厚抹茶アイス食べられるお店があるの知ってる?あそこはやばい、まじやばい。(うんうんと頷いて激しく同意を示しつつ、抹茶といえばと思い出したことを口にして。抹茶好きにはたまらないだろうと思った店だ。)そう、まだテストは終わってないっていう。ま、時間かかるやつは先にやったから早く終われるとは思うけどね。……ふふ、その意気なら大丈夫そうだ。頑張って。(全校生徒がテストを受けるのだから時間はかかるもの。一日かけてテストをするのと何日かに分けてするのでは、どちらが効率がいいのだろう。と、頭の隅で考えていれば、テストへの意欲を見せる彼女の言葉を聞き、ふっと頬を緩ませる。素直な子。卵焼きを頬張る姿は何故か微笑ましい。)へぇ、お母さんと仲が良いんだ。ね、あんたが作ったのってどれ?(共同作と聞けば驚いたように瞬いて、ヒュウと口笛を鳴らす。傍目には同一人物が作ったように見えるがそうではないらしい。)そう?ありがと。雪野梢ね、よし覚えた。こっちこそ、よろしく。午後のテストに向けて共に英気を養いましょう、ってね。(気にしないでという言葉に甘えさせてもらって。彼女の名を聞けば、噛みしめるようにひとつ頷いて笑う。思わぬ出会いがあったランチタイム。4月の陽気に包まれて、和やかに過ごす時間は御門にとって心地が好いものとなっただろう。)
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え…っ!?そんなお店があるんですか?渋谷までなかなか行かないので…。でも、抹茶アイス大好きなので…必ず行かなくては…。探してみます…!(あまり遠出をしない雪野にとって、彼女からの情報は初耳。目を丸くしながら彼女の話に聞き入った後、気合いを入れるように拳を握って)大変なことは、先に終わらせてしまいたいですよね。…はい、頑張ります…!(こく、と頷きながらふわりとはにかんで。彼女に優しく励ましてもらえたので、憂鬱なテストも頑張れそうだ)私は、このほうれん草のごま和えと、さつまいもの甘露煮を…。こっちの卵焼きとつくねは、母が作ってくれました(自身の弁当に興味を抱いてくれている彼女の様子に、嬉しくなってほわんと笑いつつ、おかずを指さしていって。たまに失敗することはあるけど、今回は上手にできてよかったと、そんなことを思いながら)はい…!(彼女の言葉に頷くと、ふわふわと柔らかい気持ちになって。そうして過ごした時間はとても心温まるもので、あっという間に過ぎていった。午後のテストが始まる時間になれば名残惜しそうにするものの、ぺこっとお辞儀をしつつ「御門先輩、ありがとうございました!」とお礼を告げるのだ。彼女のおかげで元気が出て、午後のテストはより一層明るい気持ちで取り組めたのだろう、なんて。)
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