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(今日はホワイトデー。昼休み前の授業が終わってすぐに机にかけていた紙袋を持って教室を出て。数分後、西野は3年教室が並ぶ廊下にいた。目指すは3年3組。どうやら少しばかり授業が長引いている様子なので廊下で待ち、扉から教師が出ていくのと入れ違いに教室内へ。知り合いの女生徒と目があったらなら軽く手を振り、目的の彼女を視界に入れればそこに向かって進もう。)白鳥さん、こんにちはー。(驚かせてしまっただろうか?席に座る彼女にへらりと笑って挨拶をしてから徐に紙袋を差し出して。)遅れましたけど、誕生日おめでとうございますー。これ、良ければどうぞ。(受け取ってもらえれば「それでは、また。」とすぐに自教室へ戻っていくはず。――ホワイトデーではなく誕生日を出したのは、西野なりの気遣い。恥ずかしがり屋と思わしき彼女、義理とはいえ自分に渡したことが彼女のクラス内に知れ渡らないように配慮したつもり。だから、紙袋の中にはラスクの箱とハンドクリームと『先月はありがとうございました。お返しです。 誕生日もおめでとうございます。 西野』と書かれたメッセージカード入り。)
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(今日は朝から他クラスの男子生徒が良く訪問して来る。其れは勿論自身を目当てにしている訳では無いが、見慣れない異性が教室に入って来るというのは落ち着かないものだった。午前の授業を終えれば矢張り知らない男子生徒達の声が耳に届いて来る。無意識に視界を狭めていたが、自身へと向けられた挨拶にびくりと顔を上げる。)えっ、あ、西野君…こんにちは。(解り易く動揺し乍らも何とか言葉を返す。緊張の為か語尾が少し上がってしまって更に恥ずかしい。続く彼からの言葉に更に驚く事になるが、穏やかな表情に若干の安堵の色を見せつつ差出された紙袋を受け取って)あ、ありがとう。…うん、また。(誕生日を覚えて貰っていた事は意外だったが彼はそう云う人なのだろう。今日まで知らなかったが彼は此のクラスにも知人が多いらしく、輝君は白鳥さんとも仲が良いのかと一部の生徒が感心したように話しているのが聞こえてきた。―帰宅後、彼からの贈り物を開き真っ先に手に取ったのはメッセージカード。誕生日プレゼントと称しながらも先月のお返しまで入っているのを認めれば自然と頬は緩むのだけれど、彼の気遣いに気が付けるほど察しが良い訳では無かったのが残念な所だろう。)
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