(3月14日、ホワイトデーの早朝。まだ誰も登校していないに3-2の教室に「お邪魔します…」と小さな声で断りを入れ入室し、座席表を確認すると目的の席まで行き机の上に白い小さな紙袋を置いて。紙袋の中には白い箱が入っていて中には手作りのオランジェットとステンドグラス調の藤の花を模した栞が入っていた。箱に結ばれた薄紫のリボンに挟まれたメッセージカードには『英吉先輩へ』と宛名のみ記されたのは、誰からかは気づかれなくても構わないけれど、いきなり置かれた不審物――一か月遅れのバレンタインの変わり――が本人に無事に渡ればとの願いを込めて。無事に置くことが出来た安堵と自己満足でほっと息を吐きだし、静かな教室を後にした。)
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(バレンタインに誰かへ渡した記憶は男にはなかった。けれども宛名はきちんと自身に向けてであることが示されており、決して間違いなんかではないのだろう。薄紫色のリボンや藤の花を模した栞などから連想される人物はただ一人。彼女もまた元気そうであるなら、それはそれで男に安堵をもたらした。──さて、このオランジェットの感想を伝えられるのはいつになるだろうか。もしその日が来るのなら、その時はゆっくりまた話せることを願って。ちょっとくらい我儘になってもいいんだよとお返しのリクエストも聞き出したいところ。次に会える時を心待ちにしながら、男はこの春を過ごすのであろう。)
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