黛くん、お菓子ですよ〜。

(バレンタインからずいぶん過ぎた、2月25日。本来ならばバレンタインの当日に贈るべきだったのだが、14日からしばらくの間は多忙極まりなく、ぐるちゃに届いた彼からのメッセージにすら気づけなかった。彼からのメッセージにようやく気づいたときの後悔を、中村は忘れられそうにない。だけど、彼が自分からの贈り物を望んでくれるのであれば、真心込めてこしらえようと。そうして迎えた放課後、昇降口にちょんっと立つ中村。スクールバッグを肩にかけているほか、手に、本日彼にお届けする手提げの紙袋があった。口元にほんわかとした笑みを湛えつつ、後輩の少年を待って)

(今日も半分くらいは寝て過ごした退屈な授業もようやく終わり、放課後になれば晴れて自由の身。ずっと机に突っ伏していたので額が少しだけ赤みがかっている。うーん、と伸びをして、ゆっくり帰り支度を整えたなら教室を出る。昨日の約束は勿論覚えているけど、マイペースな黛には先輩を待たせてはいけない、なんて気持ちは持合せておらず。寝起きで若干ふらつきながらも昇降口に着いたなら、靴を履き替えぐるりと辺りを見回して、お目当ての少女を見つける。ひょこひょこ歩いて彼女の目の前に立ったなら、)中村せーんぱい、お待たせ。(にこ、っと笑みを浮かべながら首を傾げるようにして声をかけた。)夏休みぶりだねー、元気にしてた?

(ふとこちらに歩いてくる人影を感じ、振り返れば待ち合わせ相手の少年がいて。とりたてて慌てている様子がないのが彼らしい、と安心感を抱きながら、ふわふわと笑おう)黛くん。こんにちはー。…ふふー、授業中寝てた?おでこ、可愛いことになってるよ(彼の前髪からちらり、赤みがかったおでこが見えた。自分のそれを指さしつつ、そうからかってみて。元気にしていたかと訊かれれば、こくっと大きく頷いて)うん!…でも、もうすぐ学年末試験だからねぇ、ちょっと憂うつだよ〜(と、肩を落としつつ苦笑い。――と、まずは本題に入らなければ。そう思えば、通学かばんから包みを取り出し、彼に向けて差しだそう)はいっ、遅くなっちゃったけど、ハッピーバレンタイン!(まろやかな空色と白――二本の麻紐と、金色の丸いシールでラッピングされた透明の包み。中にはチョコレートフィナンシェがふたつ、仲良く並んでいる)何作ろうかなって思ったんだけど、ふわふわ〜さくさく〜なフィナンシェがいいかなって思って。…黛くん、好きかな?(こて、と首を傾げつつ)

えー、なんで寝てたのバレたし。…って、おでこかー。(からかわれていることに気が付けば、指差された額をさすりつつ照れたようにはにかみ。元気かという問いには文字通り元気な答えが返ってきて、相変わらずだと微笑んで。試験の話題になっても黛の表情は変わらずゆるい笑顔で)あー確かにテストはだるいけど、早く帰れるからなー。結果は別にどーでもいいし?中村先輩はもう3年だからやっぱがっつり勉強してるん?(彼女の進路も学力も一切知らないけれど、3年生ともなればそれなりに真剣になるのだろうかと素朴な疑問を投げかけたが、その疑問を言い終えて眼前に出てきたのは今日彼女と会う理由になったそれ。パチパチ瞬きしてから包みを受け取り、今日一番の笑顔を見せよう)わーい、ありがと。フィナンシェめっちゃ好きー。マドレーヌも良いけどやっぱフィナンシェだよねー、ふわふわサクサク好き。中村先輩ナイスチョイス(うんうんと何度も頷いて)

そう!…わたしも前にやっちゃったんだぁ。仲間だねぇ〜(はにかむ彼にほのぼのとした笑顔を崩さぬまま、ちょっと恥ずかしい告白も交えて)あ、早く帰れるのは嬉しいよねぇ〜。…けど、黛くん大物だね!わたし、赤点回避できたかな〜とか、回答欄ずれてた〜って、テスト終わったらちょっとクヨクヨしちゃうのに(むう、)うんっ!…わたしはあんまり勉強得意じゃないんだけど、進学はしたいなって思ってるの。だから勉強は頑張ってる。けど、昨日は勉強サボってあみぐるみ作ってた…(彼の疑問にはこくっと頷いてそう答えるけれど、昨日はちょっと怠けてしまったので、嘘をつくのは気が咎めた。だから決まり悪そうに眉を下げながら、へへっと照れ笑いをして。自身の贈り物に喜んでくれている様子の彼に、ほっと表情を綻ばせた。胸元に手をやってほのぼの笑いつつ)よかったぁ〜。わたしもね、マドレーヌもいいけどフィナンシェ派なんだ。黛くんが何を好きなのかわからなかったから、わたしの好みにしちゃいました(うふふ、とはにかみながらそう話しつつ、「途中まで一緒に帰ろっか?」と何気ない調子で誘って)

へー、中村先輩も授業中に寝たりするんだ?なんか意外ー。(目を丸くして少し驚いた様子。)やー赤点なんてそうそう取ることないっしょ。3年の問題はむずいかもだけど、1年なんてたかが知れてるし?でも回答欄ずれんのは流石にヤバイから、一応確認は毎回するー。中村先輩は確認してもズレてそーだね(くすくす笑いながらの失礼発言。何故だか彼女にはちょっとドジなイメージあったからで。)まじか、じゃあ受験勉強とかしてるんかー、めんどくさそう。毎日勉強してたら嫌になるし、たまにはサボっても良いんじゃない?息抜きは大事。(サボり魔の黛からすれば1日サボるくらい何でも無い、だから彼女を責めることもしないし、出来る立場でもない。ならば肯定しようと笑って言ってのけて。)中村先輩もフィナンシェ派なん?気が合うじゃーん。でもフィナンシェよりマドレーヌの方がメジャーなイメージあるんだよね、なんでだろ。(共通項が見つかれば嬉しそうに。最後の疑問は本当に勝手なイメージだけれど。)ん、いーよ。てゆか元々そのつもりだったし。帰ろう帰ろう。(彼女の提案に明るく賛同すれば、花火大会の日と同じようにゆっくりと世間話でもしながら帰路に着くのだろう―)

いつもじゃないんだけどね、その日はつい眠くなっちゃって(ふふーっとちょっと照れくさそうに笑いながら)へぇ…黛くん、すごいなあ…どっしり構えてるんだね…って、ええーっ、わたしそんなイメージあるの?む〜…(彼の言葉に最初は感心していたが、彼が抱いている自身のイメージを知れば、目を丸くして驚いたあと、ぷっくり頬をふくらませて。などと言いながら彼の言葉を否定せずに「…これからは気をつけないと」と握りこぶしを作って)めんどくさいよー!でも、将来の夢が決まってるから、頑張ろうーってなるの。わたしはね、短大に行こうかと思ってるんだ。栄養士になりたいの(彼の言葉に賛同するように大きくうなずいてから、自分なりの気持ちを補足して、穏やかに笑うのだった。ただ、彼の言葉をありがたいと思ったのも事実なので、「うん!…ずーっと勉強ばっかりじゃさすがに嫌になっちゃうし、息抜き大事!」と明るく言って)あ、それ思う。なんでだろうね?…マドレーヌの方が、貝みたいな形してておしゃれだからかな〜?(ふむ、と考え込んでから、ちょっと間の抜けた発言をして)ありがとうっ(彼が誘いに応じてくれたなら、嬉しそうににぱっと笑って歩きだそう。とりとめのない世間話がとても心地よく、あっというまに分かれ道になるはずだ――)