(とある、昼休みの事。三年の教室を颯爽とお決まりの営業スマイルを貼り付け歩みを進める少女はある少年に会う為足取りを向けた教室、見かけない顔に振り向く生徒の視線をスポットライトと履き違える少女は今日も脳内お花畑。義理だの本命だの、バレンタインのイベントはチョコよりも自身の手作りという時点で相当な価値に達すると個人論する故に「彼は驚くに違いないわ、なんならこんな美少女が訪問して、更にはプレゼントまで…驚いた余りに気絶しちゃったりして!」と空想に華を咲かせるのも得意分野。廊下でへらへらと営業スマイルが緩い笑みに変化すれば忽ち変質者代わりで周囲から一定距離をキープされて遠のいているのにも気づかずに。甘い香りに浮かれた少女が辿り着いたのは3-2の札が掛けられた扉の前。その扉から出てきた男子生徒に声を掛け「すみません、つ…白石翼先輩はいらっしゃいますか…?」と、声掛けた。しかし不覚にも不在の声が耳に入れば「そうですか…有難うございます」眉を下げ彼に感謝の意を告げては先程の意気込みは何処へやら。)…めっちゃバットタイミングー……いっ(教室に背を向け振り返った所で頭部に走る軽い衝撃、頭から突っ込んでしまった人物に何処かで嗅いだ漂う花の香にばっと勢いよく視界を上げれば)……翼センパーイ!はあーよかったー!探してたんです…はいっ調理実習でチョコを作ったので、ハッピーバレンタインですったくさん貰ってるかもって思ったので特別にこれもっ(漸く彼を視界に捉えれた事が余程嬉しかったのだろう、水を得た魚のように其れは嘸かし嬉しそうに喋り始め満面の笑みで見上げれば手に握るビニール袋に詰められた料理部で培われた努力の結晶のチョコ達、詳細は部分的に歪な形をしている本人的に中々満足の出来具合と自負しているよう。しかし問題なのは、自己主張の為に良かれと思い目印として指さしたのは、東宮がウインクして決め込んでいるチェキに「Happy Valentine!」という筆記体とハートが散りばめられている誰が撮影したかも謎な其れで。自分を溺愛しすぎる故に発生した事件だが、彼は喜んでくれるだろうと強い確信の上だ。彼が受け取れば、)またぶつかっちゃってごめんなさい。それじゃあ失礼します!(にこっと笑顔を深めて手短にその場を鼻歌交じり嵐の様にそれは去っていくのだった―)
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