(バレンタインの翌日、早朝。緊張した様子の雪野が歩くのは、2年生の教室が並ぶ廊下。――しばらく話していない先輩に、お菓子を贈ろうと思い立ったのだ。以前保健室でお世話になった彼女。以来、雪野の勇気が出ずになかなか話しかけられずにいたのだけれど…時々“きょうのことば”で元気そうな姿を拝見しては、ほっこりしていたのだ。雪野が用意したのは、スライスアーモンドがちりばめられたココアクッキー。鮮やかな水色ストライプの袋に朱いリボンでラッピングし、茶色い紙袋に入れてある。調理実習で作ったお菓子は、家族や友人などに渡してしまったので、バレンタインの夜に祖母とこしらえたものである。こっそり教室内に入り、すでに登校していた生徒に彼女の席を訊こう。そうしてたどり着いた机に、ちょこんっとそれを置けば、周囲の生徒にぺこっとお辞儀をしてその場を去るのだった。紙袋には生成り色のシンプルなメッセージカードも添えられていて、【よっこさん、ハッピーバレンタインです。寒い日が続くので、お体にはお気をつけて。また機会があったら、お話ししてください 梢】と、丁寧な文字で書かれていることだろう)

ひぃ〜〜〜遅刻遅刻ぅ〜〜(猛ダッシュで教室に駆け込んだのがこの女。相変わらず時間の使い方は下手くそで騒がしいったらありゃしない。ぜえはあ息を整えながら視界に入ったのは見覚えのない袋が机の上に鎮座している光景で。息も絶え絶え近寄って、とりあえず先に腰掛ければ両手でその紙袋を持ち上げた。)お? お? おお?? よっこ宛だ〜〜!梢ちゃんありがとう〜!!(むぎゅう。嬉しさのあまり抱きしめた紙袋は悲しいことにちょっと変形。あわわわ。慌てて綺麗に整えながら中身を拝見。調理実習で作ってくれたらしいクッキーに自然と目元が緩んだ。きっとお昼には食べ始めてしまうんだ。だって帰るまで味わえないなんて我慢できそうにない。食べ終わったら帰る前までに彼女の姿を探して伝えよう。「ありがとう!」そして「美味しかったよ!」この二つを心を込めて。)