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黛くん、強制連行っていうやつです。
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(調理実習が終わってから、身体から甘い匂いが浮き立つ。けれどそれは身体中の匂いだけではなく、周りの友人たちの雰囲気からも感じられた。勿論誰にあげようか…なんての話題で持ち切り。そして本人へも振られるわけで、「そうだねー」なんて空笑いを浮かべながら、軽く話をスルーするその姿。しつこく聞かれても応えるに困るしと思いながら、放課後のチャイムを今か今かと待つのだ。−−チャイムが鳴ると同時に、動き出す周辺の音。その中でも彼女の視線はある一定の人物から動く事なく、見つめたまま。そして彼が動き出そうとすれば後ろからこう声をかけてー)黛くん、ちょーーっとだけ時間頂けます??(くいくいっと袖を引っ張りながら彼の返答を待たずして廊下へ連れ出す作戦。周りに気づかれる前に。そして死角になる部分へ彼を連れだせば、改めて彼を見上げ。)…あ、ごめんです。急いでた?(と、今更ながらそう問いかけようか。)
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(甘いものは好きだけど、黛が作るよりも食べる専門なのはクラスの誰もが認めること。調理実習ではまるで役に立たなかったが、実習が終ればこっちのもの。クラスメイト達から餌付けやお情けのようにごく少量のお菓子を分け与えられればルンルン気分に。帰ったら食べよー、とラッピングされた小さなチョコを鞄にしまって、残りの授業を珍しく真面目に受ける。放課後になればマイペースに帰り支度を整えて、さー帰りましょうと立ち上がったところ)ん?あー、篠井さん、どしたー?(不意に後ろから声を掛けられ袖を引っ張られたので、顔だけ向けてそう問うのだけれど、返事を聞く前に廊下へと連れ出されて。不思議そうに彼女を見ていると、急いでいたかと問われたので、)俺が急いでるわけないじゃん。…で、何?逢引?(ゆるっと笑うと冗談めかしに連れ出された理由を問おうと。)
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(廊下までの道のりなんてすぐなのに、今日はどこか長く感じてしまう。相手の声も耳に入っているのに返事ができない。廊下を歩く他の生徒の足音がどこかすべて自分に向けられているような錯覚に陥ってしまうのだ。−−改めて彼を視界に入れれば、安堵の息を。断られなくてよかった、そんな安心感。)そうだよね、黛くんだもんね。(失礼なほどくすりと笑いながら同意すれば、「え、逢引?」とすぐに一瞬驚いたように声をあげて。)逢引じゃないよ!…ないのかな、いや黛くんとデートなんてできたらみんな喜ぶだろうけどさ…って、もーそんなこと言うとあげないよ。(自問自答を繰り返し、そしてころころ変わる彼女の表情。自分でも何を言っているのか…と思いながら小さな頬が膨れる。)もう少しでばれんたいんでーでしょ。だからお世話になっている、いやお世話している黛くんへはっぴーばれんたいんですっ(両手にのせて差し出した黒い長方形の箱に赤いリボンがついたそれ。中身は調理実習で作ったクッキー…と共に隠されている生チョコカップケーキが1つ。彼女の口調からいつも通りを装っているつもりだが、不安からか両手から少しの震えがとまらない。果たして彼が受け取ってくれたらよいのだがーー)
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(問いかけても返事がない、絶対に聞こえてるはずなのに。いつもとちょっとだけ違う感じの彼女に不思議に思うがとりあえずはされるがままに着いて行った。)そーそー、黛くんはいつもマイペースだからねー。(くすりと笑う彼女に「あ、いつもの篠井さんだ」とどこか安心したように。そして軽い冗談にきちんと反応してくれてご満悦。)あ、そう。てか篠井さん何言ってんの、俺とのデートなんてレア度低いんだから誰も喜ばないって。(あは、とやっぱり冗談めかして笑ってみせるが、彼女が頬を膨らませて発した言葉には目を丸くする)あげないって?(はて、と首を傾げたが彼女がすぐに説明してくれたので手をポンと打つ)あー、バレンタイン。(差し出された長方形の箱は、他のクラスメイトから貰ったものよりよっぽどしっかりしている。だがそれよりも、ちょっとだけ震えている手が気になったので。)めちゃ嬉しい、ありがとー。そんでもって、これからも俺のお世話よろしく?(へにゃりと笑いながら彼女の両手を包むように自分の手を添えよう。震えの原因はわからないけれど、こうすることで治まれば良い、なんていうのは思い上がりだけど。)
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マイペースなのが黛くんの良いとこでもありますもんね。(ふふ、と口元を緩め小さく笑いながら、笑みと共に言葉が重なる。)レア度低いの?じゃあ今日も今からデートですか…。(ちらりと下から視線を彼に向けながら、再び時間は大丈夫なのかと頭を過る。それでも、もう気にしていられないのだ。全ての緊張を隠すのは勢いでしかない。そう思いながら勢い任せに差し出した其れ。彼がバレンタインと気づいてくれたならば嬉しさを感じるが、不愉快に思われていないだろうかとマイナスなことばかりを考えてしまうのは自分の悪い癖。ー嬉しいという言葉がストンと心に沁みたなら、それ以上の喜びはないのだが。)黛くんのお世話って、遅刻しないように毎朝鬼電することとかかな。(なんて冗談気な声が響いたのもつかの間。すぐにその口は閉じ、慌てる彼女の目線は彼と、包まれた両手を交互に動きながら今の状況を必死で考える。ー結果、先ほどよりも染まった頬と共にでた言葉は自信無さそげに、)…これはバレンタインのお返し…かなぁ。
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気分が乗れば割とホイホイ着いてっちゃうからなー、チョロいでしょ?あー今日は貰ったチョコ食べなきゃだから、デートは無いよ。(あは、と笑いながら否定して。彼女が時間の事を気にしていたとは気が付かず、何のために聞いてきたのかはわからないが、特に気にする素振りも見せずに。)毎朝電話してくれんの?でもそれだと起きれる自信ないしなー、毎日迎えに来てくれてもいいんだよ?(何故か上から目線で、冗談には冗談で返そう。しかし彼女の手を包めば急に黙ってしまったので、こてんと首を傾げて。少し間を置いてからの呟くような言葉と、可愛く頬を染める姿にぷぷぷ、と小さく笑い)まーた変なこと言ってる、これがお返しとかどんだけナルシストだよ。バレンタインのお返しは来月ちゃんとするから安心していいよ。(そう言うと一旦彼女から手を離し、今度はきちんと箱を受け取って。)お返しは何が欲しい?甘いもの?
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一瞬知らない人からお菓子をもらえたらついていく小学生が浮かんだ…なんてことは内緒にしとくね。(苦笑いを浮かべながら、ゆるりと細く伸びる双眼と共に発せられた言葉は意味と共に矛盾を感じるものであるが。)毎日お迎えしてたら、わたしも遅刻しそうだから遠慮しておきマス(冗談を冗談で返されたならば、にっこりと笑みだけが重なって。気が向いた日くらいは、なんて一瞬頭を過りながら。−−う、笑ってる。…自分の反応を楽しんでいるかのような彼に素直になれない篠井がいて。それでも受け取ってもらえたならほっとした安心感が胸の中を明るくさせる。これにて任務完了。)あはは、ナルシストな黛くんもいいと思うけどね。(いつもの彼女らしい笑みが零れる。一気に緊張が解けた瞬間で。)うー、お返し目当てじゃないけど。じゃあまた今度、おススメなおいしいクレープか甘い食べ物のお店を見つけたら、付き合ってくれたらうれしーな。(そう、緩まる頬と共におねだりを1つ。)
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いやいや内緒にするなら俺にも黙ってて?でも小学生は置いといてー、お菓子もらえたらついて行くのはガチかもしんない。誘拐されちゃうかも?(言葉に潜む矛盾には勿論触れておこう。苦笑を浮かべる彼女とは打って変わって可笑しそうに笑いながら冗談めかしに呟いて。)おー、さすがに良くわかってらっしゃる。でも俺もさ、毎日遅刻してるわけじゃないっしょ?いつもギリセーフかギリアウトじゃん?でもギリアウトなんてもうほぼセーフじゃん。(遅刻は遅刻で間違いないけど、あまりにも稚拙な屁理屈をこねて。でも実際、彼女に迎えに来てもらったらギリギリの時間で慌てる彼女と気にしない自分とでデコボココンビになること間違いないだろうと思っては、あは、と小さく笑って。)いやー、向上心のないナルシストなんてキモいだけっしょ。身の程知らずってやつ?(やれやれ、といった手振り付きで苦笑して)んー、了解。じゃオススメ探しとくよー。けどやっぱ、あんま高いのはムリだからなー。(彼女のおねだりには笑顔で了承して。彼女が高額なお店をせがむような人じゃないことは知っている。最後に付け足した言葉はほんの冗談で。先程受取った箱を鞄にしまったら、)そんで、篠井さんはもう帰るん?それとも部活?
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おっと、ついお喋りな口が。でも誘拐された日には、黛くんの跳び蹴りが決まるはずだよ。(わざとらしく両手で口を押え、なんて冗談げに笑みを浮かべつつ。その瞳にはいつもの楽しさが含まれる。)ギリセーフを狙うなら、余裕のセーフを狙いたいお年頃なのですが!(上手に言葉を返してくる彼を誉めてしまいそうになると同時に自然と笑みが零れてしまう。そして彼女のツッコミは止まらない。)じゃあ向上心をつけちゃうナルシストを狙っていく黛くんへ、高いお店を期待してまーす。(へらりと笑いながら、彼の言葉をぽんぽんと遮りながら返す言葉にはやはり可笑しさが混ざってしまう。それだけ彼女にとったら楽しいひと時だったのには変わりなく。「なんてね」と、最後に付け足された言葉もいつものこと。)今から帰宅部っていう部活かなぁ。黛くんも帰宅?それなら途中まで一緒にいこうー!(彼の顔を覗き込みながら、にっこりと微笑んで。勿論共に帰宅するのは彼の返事次第なのだが。それでも校舎の途中までは隣に並ぶ二つの影があった筈。そんなバレンタインの前の日のお話し。)
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おっと、ってさー、絶対わざとやん、白々しいわーこの人。跳び蹴りとかまじでポケモンじゃん。(笑みを浮かべつつに冗談を言う彼女に、黛も楽し気に乗っかって軽くツッコミを入れ。)まー余裕があるのはいいことだけどさ?余裕を持つなら学校よりも家のがよくない?だからギリギリまで家で余裕する。(ふふーん、とお茶目に笑いながら矛盾したことをサラリと言う。)いや俺ナルシストじゃないからね?ちょ、こんな貧乏そうな学生にたかるなよー。でもとりま店は考えとくー、スイーツが美味しいとこね、了解了解。(とりあえず釈明したい所だけはきちっと伝えて。あとは軽い冗談だとわかっているので普段通りのノリで返し、要望には応える気持ちがあることを伝えるのも忘れずに。)あれ、篠井さん帰宅部だったん?気付かなかったー、同じ部活だったのかー。(幽霊部員予備軍の黛は実質帰宅部の様なもので、今日も活動せずに帰るつもり。帰宅かと問われれば、勿論と言わんばかりに首を縦に振って彼女と帰路を共にするだろう。いつもの軽口を言い合いながらの帰り道はいつもよりも短く感じたに違いない。)
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