(調理実習終了と共に篠井の足取りは自分のクラス…ではなく上級生の教室へ。何だか緊張してしまうのは当たり前のことで。昼休みなら他の学年の生徒もいるだろうといった作戦。目的の人物の教室をちょこんと小さい瞳で覗き込めば、そこには以前ゲームだとしてもまんまとそのかっこよさに篠井の胸をざわつかせた、そんな相手がいるはずで。勿論彼はそんなこと思いもしないのだろうと、それはそれでどこか悔しい気もするが。さて、相手を見つければ彼が1人になったのを狙って篠井の足は一直線へ向かうつもり。そしてすっと両手を突き出せば、その上には調理実習でつくった生チョコがラッピングされたものがあって。)進藤先輩、ぷれぜんとですっ。さっき調理実習でつくった生チョコです。前にゲームにお付き合いいただいたお礼です。(なんて、素直に調理実習でつくったことを告げるのは、ゲームみたいにうまい胸キュンシーンが思いつかなかっただけの話。彼が受け取ってくれれば、早々と教室を後にして。変に周りからの視線を受けたくないだけである。モテるであろう彼に迷惑をかけまいと、今日も篠井の胸は躍るーー)

(教室で一人まったり過ごしていた男の元に現れたのは可愛らしい少女で。その子はいつぞや男の強引な演技に巻き込んでしまった子だった。だからこそ、その突撃にぱちりと双眸を瞬かせたのだけれど)俺に?いいの?じゃあ、有難く頂戴します。(差し出されたそれが調理実習で作られた生チョコだとわかれば、しっかりと両手で受け取って。あの日のことに付き合ってもらったのは男自身の方なのに、こうして彼女からお礼されるとは予想外。律儀で優しい子のプレゼントに心の奥が暖まった。──早々に帰ってしまった其の背を見送れば、早速ひとつ摘まみ取って口の中へ。甘くて美味しいチョコレートの風味が広がった。「お前らにはあげないよ。」にっこり。そんなクラスメイトとの牽制をし合い、彼女のおかげで甘く彩られた一日を終えるとしよう。)

(──ホワイトデーを迎えた日。男は朝イチで彼女の教室へと向かった。早朝の登校故にまだ教室はがらりと人気はなかった。事前に彼女の席を調べておいたために迷うことなくその机の中へと忍ばせたのはもちろんバレンタインのお返し。キャラメルホワイトデーBOXはハート型の箱に入った可愛らしいデザインだ。そこに名前を記したカードも添えればミッション完了。長居は不要と、さっさと教室を後にしよう。これからも彼女が元気に過ごせるよう、願いを込めて。)

──生チョコ美味しかったです。ありがとう。またお喋りしてね。──