(まだ登校している生徒も少ない、2月14日の朝早く。登校して自教室に荷物を置けば、こげ茶色の紙袋を持って2-1教室へ。かち合ってしまった彼のクラスメイトに自分が来たことは口止めを。事前に調べておいた彼の上に持ってきた紙袋を置いて、そっと2-1教室を後にしよう。紙袋には几帳面な字で「白鳥春樹様」と書かれた付箋が貼られている。中身はパッケージがむき出しのビターの板チョコ……板チョコに隠されるように紙袋の底にリボンがかかった手作りのタルトショコラの箱。――差出人の名前は書かなかったが、彼ならばきっと気づいてくれる。それはある種の賭けだった。)

(早朝は希望者を対象とした補習授業に参加している為、自教室へ着くのはいつもホームルームが始まる五〜十分前とクラスの中でも遅い方である。バレンタイン当日も其れは変わらず補講を終えてから教室へ。「おはよう」挨拶をした際にクラスメイトの一人が此方を見て妙に笑顔だったのが気になったが深く突込まず自席へ向かった。机上のこげ茶色の紙袋に既視感を覚えた。取敢えず教科書類を机の中へ仕舞い鞄を机の横に引掛け、席に着けば深く息を吐いて紙袋の中を確認する。パッケージ剥出しの板チョコに「やっぱり」と小さく小さく呟いた。更に板チョコを持上げて、現れた箱を見ると双眸を瞬かせ首を傾げる。少しの思案の後、思い出したのはホワイトデーの一件だった。「本当、真面目だよなあ」誰にともなくそう呟くと顔を綻ばせる。其れからはいつも通りの一日を過ごしたが、今日はご機嫌だね、とクラスメイトから何度か指摘される程度には表情に出ていたらしい。)