(調理実習で行ったお菓子作り。慣れていないからこそ慎重に丁寧に何度も分量を量ったりしながら時間を掛けて作った。如何したって指示通りにしか出来ないので概ねお手本通りの仕上りと言えよう。出来上がったお菓子の内、幾つかは学園側が用意したシンプルなビニールの袋に入れてその日の内に友人と交換した。折角の機会なので最近会っていない人と会うための口実にも使おうと、幾つかは自宅へ持ち帰る。ペールグリーン地に白ドット柄の紙袋、今回の実習で最も出来の良かった市松模様のクッキーを詰めて、口を織り込み縦にぐるりと麻紐で一周、結び目は蝶結びに。そして翌日放課後、早々に帰り支度を済ませると紙袋を抱えて教室を出た。1年4組に着く頃には生徒数も疎らにはなっていたが、目的の彼女は未だ自席にいるようなので躊躇せず彼女の席まで歩を進めよう。)梢ちゃん、久しぶり。調理実習で作ったやつだけど…良かったら此れ、貰ってくれるかな。(にこやかに微笑むと両手で差し出そう。其れが問題なく彼女の手に渡ったなら、今度は一緒に帰らないかと提案を持ち掛ける。勿論先約が有るなら無理強いをする心算は無いが、若し叶うのなら以前紹介してもらった本の感想等を話しながら共に帰路を辿る事となるだろう。)

(放課後。日直の仕事があり教室に残っていた雪野は、用事も終わったからと帰り支度をしていた。入口に近い席にいる雪野。誰かが来ればすぐにそれがわかるので、なんとなしにそちらへ視線を向ける。すると、久しく会っていなかった先輩が、自分の方へやってきているではないか)はるるん、先輩…?(目を丸くしながら席を立つ)はい…お久しぶりです。……え?(まさか彼が自分の分も用意してくれているとは思わなかった。しばしぱちぱちと、瞬きを繰り返しながら差し出されたラッピングを見る。可愛らしく包装してくれているそれは、一度自宅に持ち帰って施してくれたのだろうか)……嬉しいです…ありがとうございます、はるるん先輩!(しだいに胸にじわじわとあったかい気持ちがこみ上げて、彼からの贈り物を受け取った。大切そうに抱え、ふんわりとはにかむ。――彼からのお誘いも雪野にとっては喜ばしいもので、すぐに快諾した。本のお話をしていると、まるで以前お話ししたときに戻ったようで、つい饒舌になりつつ)…あの、はるるん先輩。私、調理実習で作ったお菓子は…もう、ないので。だからまた明日、別のものをお持ちしますね(別れ際にそう告げたあと、準備を始めよう。元々祖母とクッキー作りをする予定があったのだ。そうしてできあがったのは、スライスアーモンドがちりばめられたココアクッキー。まろやかな水色に白いストライプがかかった袋に詰め、白いリボンで巾着のように結ぶ。それにメッセージカードを添え、茶色い紙袋に入れたなら、翌日彼のクラスへ。上級生のクラスには行き慣れていないためちょっぴり緊張したのだけれど、そっと彼の机に置いておこう。シンプルな生成り色のメッセージカードには“はるるん先輩にお菓子をいただけて、本当に嬉しかったです。大切にいただきます。ぜひまた、ゆっくりお話ししましょう 梢”と書かれていて)