休み時間中の廊下、自販機前

(ポケットに無造作に手を突っ込んで取り出したのは100円玉。投入口に入れようとしたのに滑ってしまい、落したと思ったらコロコロと転がってゆく)ちょ、なんで転がるし。(はぁと溜息)

(トイレ帰りの男はゆったり歩く。その足元にころころころりん。トンとつま先に当たったところで倒れた100円玉。踏みつけることなく腰を屈める拾い上げれば)君の?(とそれを差し出した。)

(転がる硬貨をゆるゆる追いかけようとしたら誰かの足に当たったので立ち止まる。差し出された100円玉を、両の手を出してそこに落としてもらおうとしながら)そうそう、俺の。どーもありがと、美白のおにーさん。(少し見上げるような態勢で微笑み)

(ぽんっと100円玉を彼の掌へ乗せれば)なくならなくてよかったね。ははっ美白のおにーさんって初めて言われた(ふはっと噴き出して笑えば)何か買うつもりだったの?(視線の先は彼の奥、自販機へと向けられた。)

(載せてもらった100円玉をぎゅっと握り)うん、よかった。おにーさんのおかげ。(にっこり笑って)えーじゃーなんて呼んだらい?あ、俺は黛龍海ってゆーんだけど。(こてん、首を傾げたら、彼と一緒に自販機を見やって)まだ決めてなかったけど、今はカルピスの気分かなー。

うん、どういたしまして(軽やかに微笑めば、そのまま弧を描いた口許が紡ぎ出すは)進藤でいいよ、3年の進藤英吉。黛って珍しい名字だね?かっこいいなぁ…(自販機から戻った羨望の眼差しは彼を見据え)黛くんて冬でも冷たい物飲めちゃうタイプ?

進藤先輩ね、おっけ、よろしくー。えーそう?英語にするとアイブロウだよ?ダサくない?(格好良い、という言葉には首を傾げて否定する。自販機に小銭を入れて、カルピスのボタンを押したなら)冬でも冷たいの普通に飲んじゃう。進藤先輩はお腹壊しそうな顔してるー、色白だから?(出てきたそれを拾い上げ、あは、と茶化す様に笑って)

うん、よろしくね。…あはは、英語にしちゃうとね。そのままの漢字と響きはとてもカッコいいと思うよ。(緩い笑みを浮かべ、男の感想は変わらないことを伝えよう。人それぞれというものだ。)そうだね、お腹壊しちゃってトイレから出て来られないかも?(ふはり、茶化されればそれに乗っかって。それから)保健室で休むかな、今から。(飲んでもいない冷たいカルピスを言い訳に、そんな冗句を一つ。)

そーかな?そんなん始めて言われた、けどありがとーございまーす。(一度は否定したが、彼の意見が変わらなければ素直にお礼を伝え、ゆるっと笑って。)まじ、トイレとマブダチパターンじゃん、大変そー。カルピス見てたらお腹壊しましたって言うの?進藤先輩見かけによらずワルじゃん(冗談だとわかっているけど、小さく噴き出してそれに乗っかろう)俺も休みたいけど、今日の所はマジメに授業出るよ。先輩、またねー。(ひらり、空いた方の手を振れば教室へと戻って行く。)

ふふ、初めてを貰っちゃったね?(楽しげに微笑みながら冗談めかして)最近のトイレは快適に作られてるよね。すごい技術だよ。普段から真面目に過ごしてると割と横暴なこと言っても信じてもらえるんだよ。(ふはり、悪戯な笑みはもうどこからが冗談かさえわからなくなるように。)うん、そうしてね。それじゃあ俺もこれで。またね?(ひらり、緩く手を振って応えれば男もまた廊下を進み出そう。)