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(大きく伸びをする影が伸びる昼下がり―)
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(午前の授業の終わりを告げるチャイムと共に一気に賑わいを取り戻す教室、分け隔て無く接してくれるクラスのお陰で自然と転校から間もなく馴染みを覚え始めた。友人に囲まれながら食べるお弁当はあっという間に感じ、まだ昼休みを満喫する時間は残っている。教室で過ごすのも惜しいが、一度訪れてみたかった場所へと足を運んでみようと一人席から立ち上がれば)私、ちょっとお化粧室行ってくるね(関西弁のイントネーションはまだ抜けず、ふんわりと標準語を装ったその言葉を残し教室を出て向かうのは憧れのあの場所―屋上の階段をワンテンポのリズムで昇り、周りに誰もいない事を不審に再度確認してから瞳の奥のキラメキを隠せぬままそっとドアノブにへと手を掛けた―)
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屋上は解放感があっていいよね。
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(屋上にある小さな庭園は学園内でも屈指のお気に入りスポットだ。教室でお弁当を食べたのち、週に何回かは軽いお散歩気分で屋上に行く。良いお天気なので今日も庭園の花を1人で眺めていた。いくら日が出ていても、冬場は長時間屋上にいると冷えてくる。ふわりと冷たい風を感じては両腕をさすったなら、憩いの時間もそこそこに教室へと戻ろうか。ドアノブに手を掛けて、開けた先にはなんと女の子が。視界に捉えて「あ、」と声は漏れたものの運動神経が追いつかない。彼女が反射的に避けてくれなければぶつかるだろう―)
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ほんとに!気晴らしに持ってこいですねっ!
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(自身がドアノブに手を掛けたその一秒後、引っ掛けられたその手を扉の反対側から引き寄せる力に油断していた事もあり、身軽な少女の身体は容易に体制を崩してしまう。「え…っ、ちょ!」視界は急変、動揺が隠せず間の抜けた声を漏らすも時既に遅し。―驚きの張本人となる男性に頭から突進する形になるのを数分前の東宮に予想出来たであろうか。其の儘相手に雪崩れ込む形は何とか阻止しようと相手が体勢を保てるよう無意識に両腕を強く握り何とか持ちこたえれば、慌てて少し口早に)…ちょ、すんません!めっちゃあたしの不注意でやらかしてもた、ごめんなさい!…怪我とかありませんでしたか?(動揺を隠せずイントネーションはすっかり関西弁な事に気づかぬ様だが、眼の前の見ず知らずの貴方に最後に首を傾げ見上げる天然のあざとさは忘れずに問いかけて―)
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のんびりしすぎて授業遅れないようにしないと、だけど。
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(相手を避けることも、立ち止まって肩を支えることも、己の能力ではできそうにない。惰性で一歩踏み出してしまった。擬音にするなら「ぽす、」という感じだろうか。相手は倒れこんでくるような形で接触したのに、非力な自分でも何とかひっくり返らないくらいの弱い当たりだった。少し危なかったけれど…自分も前方に力がかかっていたのは不幸中の幸いだったのかもしれない。「おっ…と、」と声を発しながら少し後ずさるようにして衝撃を吸収すれば、彼女のぽんぽんと出てくる言葉に面食らったように瞳を大きく見開き、耳にした言葉を飲み込むのに少しの間隔を開けて―)あ、ああいや、俺は大丈夫だけど…君の方こそ大丈夫?(可愛らしく首を傾げて見上げてきているが、どこか痛いところは無いだろうか、と男は困り顔で問い返し―)
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授業遅れてしまうと、入りづらさマックスですからねえ
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(恐る恐る見上げたその顔は思ったよりも中性的で、強面の学生でない事を確認出来れば一先ず胸を撫で下ろす。しかし、自身の問いかけた言葉への返答は沈黙で返され、一瞬ぎょっと目を見開き硬直の時間が数秒続く―え…なになに、怒っとる?!どないしよ…あ、それか美少女すぎて恐縮しとるとか?嗚呼、もう…罪な女やわ…。と、下らない思考回路という名の戯言を脳内で再生しつつ表情には少し漏れていたかも知れない。)…あっ、じゃあ良かったあ。お陰様で私は大丈夫です!(ゆっくりと話す彼の言葉に怒りの間で無かった事に安堵しへらっと困り顔の彼に笑い返しては、そっと彼の肩から手を離し、 彼の肩の上から覗く屋上の景色に庭園が広がっていた事を知らず、キラキラと目を再び輝かせ)わあ、庭園!すごく綺麗ですね!(彼を再度見上げ声と肩を弾ませる様子は子供のようで)
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もしかして…もう経験ある?
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(受けた言葉を一つ一つ咀嚼し返答をするまでの間、彼女の表情がころころと変わったようにも思えたが、それを理解するほど感覚の鋭さはなく、少し不思議そうな顔を見せるのみ。漸く声を出せば相手が安堵の表情を見せたので、特に気にすることもなかった。)そうか、よかった。俺のせいで骨折でもしていたら、どうしようかと思った。(元気に返してくれたことで不安はなくなり、仰々しい言葉を発しつつ困り顔から無表情へ。背後に広がる庭園に反応を見せたので、彼女の視界の邪魔にならないようにそっと避けて。)そうだね。屋上に庭園がある学校って少し珍しいと思う。…もしかして、屋上に来るの初めて?(綺麗という言葉には全く同感で、彼女が自分と同じ感想を持っていたことに薄く微笑むも、ふと気になった質問を投掛けて)
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まさか、無いですよ!時間は守る為にある!はず…
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(大袈裟な彼の発言にえっ?!と思わず声が出るがすぐにくすっと微笑みを浮かべ)ふふ、あまりにも私が華奢なので、ごめんなさい。心配性すぎですよ…ってあれ、ホンマに心配してます?(実際、気を抜いていなければ全く持って動じなかったであろうが、ついていたといわんばかりに口元の緩みを微笑みにまで殺した。かと思えば急に無表情になる相手に、思わず突っ込まずにはいれなかった大和撫子になりきれない関西人の性であろうか。)…はい、初めてです、最近転校してきて…あ、そういえば、お名前まだお聞きしてませんでした。私は一年の東宮朝日です!(くるっと振り返り手を後ろに回したまま一度深くお辞儀をした後、彼の唇が動くまで首を傾げて静かに相手の反応を待とうと)
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そうだな。…真面目な人で安心した。
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華奢…(彼女の言葉をそのまま復唱、不躾にならないよう気を付けつつ一瞥する。そうだね、とも、そうでもない、とも言わないのは少し失礼だったかもしれないが、そういう点はいつでも鈍いのだ。急に表情を消したことでかけられた疑い、彼女と同じように少しだけ微笑んで)君のフィジカルが弱すぎなくて良かったとも、君の骨密度が低くなくて良かったとも思ってる。…心配してたよ、ほんまに。(訛りまでは真似できないが、一応言葉だけは彼女のものに合わせておく。聞き慣れていない関西弁をからかうとか、バカにするつもりはない、ただ何となくだ。)転校生か、こんな時期に大変だったね。…東宮、朝日さん。(振り向いて丁寧にお辞儀して来る彼女に、こくり、と頷いてその名を呼んで、)…俺は三年の白石翼。ええと、よろしく。(言葉を発するまで待っていてくれたらしい彼女にひっそりと感謝しつつ、ゆっくりと自己紹介をして。)…そういえば、東宮さんは一人で何しに屋上に?探検、とか…?
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そう、華奢!(思わず復唱を復唱返し。言葉を続けぬ彼に、言葉を返してくれるだけ普段他者から返される対応よりも手厚いと感じるポジティブ女は、どれほど寒い冬でもヒートテックで着込む事をしないのは中学の時の空手部で鍛えられた体格も華奢に見えるよう影ならぬ努力の賜物と言えよう。心の中でガッツポーズをし何の躊躇もない笑顔を振りまき。)うふふ、そうですか!あっれやば、今のは無しでー…あ、もうおちょくらないで下さいよー!(しまったと口を抑え、無意識に発せられた方言を相手の記憶から抹消させたい所だがきっと無理な要望だ。嫌味な感じでないのは容易に察せられ、ポーカーフェイスな彼の口から零れた方言に自然と笑みが溢れ、ぽんと彼の肩を撫ぜる。自身の名を呼ぶ彼にはにっこり微笑みを返し、)はいっ!朝日って呼んで下さいね(明るい声のまま技と首をこてんと傾げ笑みを深める。彼が先輩だと知れば両手をぱんっと合わせて)あっ、先輩なんですねっ!アタシのお兄ちゃんと一緒やー。翼先輩って、呼んでもいいですか?(なるべく標準語にイントネーションを寄せるものの、無意識にでる癖は否めない。彼の表情を覗き込むように伺ってはそのまま様子を見て。)はいっそうなんですよ〜少女漫画のみすぎかもなんですけど、高校生になったら屋上って鉄板かなって、そしたら想像以上に素敵過ぎて…もう最高や!(興奮気味にそう伝えるのは体いっぱいに屋上を見渡し両手を広げ楽しそうに表現する。ぴょんぴょん跳ね上がる姿は貴方の前では幼稚にも映るかも知れない)
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(笑顔を振りまく彼女に、少し首を傾け不思議そうにする。華奢という言葉が嬉しいのだろうか。彼女の日頃の努力など一切知らないのだから、理解が及ばないのは無理もないだろう。)…ん?何を無しにするんだ?(何かおかしいことを言っただろうか。やば、の意味もわからなければ、彼女のことをおちょくった憶えもない。二人で会話をしている筈なのに、何故か自分だけが置いて行かれているようで、疑問ばかりが口から漏れる。自分でも考えなければと記憶を辿るものだから、抹消どころかどんどん根付いていくだろう。)名前で?………ああ、わかった、朝日。(基本的に女子生徒は苗字呼びなので、悩んだが為に間が空いたが要望通りに名前で呼ぶことに。)朝日には兄がいるのか。じゃあまだ少しは心強いな。(1人で転校してきたなら不安も多いだろうが、兄弟がいるなら随分気が楽だろうと。呼び方に関しては小さく頷いて認可を示して。)そうか、よかったな。(全身で気持ちを表現する彼女に言葉こそ淡泊だが表情は柔らかく。ぴょんぴょんと跳ねる姿には、やっぱり無に近い表情で)あんまりはしゃぐと転ぶぞ。(普通なら跳びはねた位では転ばないだろうけど、自分を基準にするとあり得る事。注意喚起は本当に念のため、といった感じで)
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えぇっと……えへへ〜なんでしょう〜(墓穴をほってしまった事に気づいた頃咄嗟に首を傾げ苦笑気味にで顔を近づく様は圧迫にも似た誤魔化しに映るやも知れない。しかし、彼に名を呼ばれればその顔は嬉しそうにはにかみ)…は〜い!朝日でございますっ(なんて、敬礼の真似で指を揃え伸ばした手を額に持っていき笑みを深める様は彼の口から自身の名を呼ばれた事で満足げで。)そうなんです!…それとお兄ちゃんを見に行く程で今度翼先輩覗きに行く口実出来ましたし(目を細め、悪戯に微笑みを作れば優しい彼なら突然飛び込んでも受け入れてくれそうだ、なんて楽観的な思考のままに口にしたが、冗談半分にそんな事を言ってみたりして。―此処で大人しく外の風を感じ花に視線を落とす御淑やかなレディを振る舞う予定ではいたものの、踊る心の内を隠せずに彼の優しい注意喚起も右から左にへとすり抜けて、花の近くにへと歩み寄る。其程知識は無いものの、見覚えのない花を見つければくるっとスカートを翻し彼にへと向き直り)あの!これ凄く可愛いくないですか?(片手を口元に添え空いた手で彼を招く様に迎え入れるスペースを作り、屋上に一度背を向けた彼を再び呼ぶという厚かましい性格を棚に上げ、「これですこれ!」とピンクの花を指差し、名も分からないソレと貴方とを交互に忙しなく見やる実に有意義な昼休みの一時で―)
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(何故かはぐらかそうとする彼女に、ますます疑問は募るが言いたくないなら追及しないことにしよう。この件については何も言わずに聞き流すことにして。名を呼んだ時に敬礼する姿が微笑ましく頬が緩む。)サザエさんみたいだな。(彼女の口調を聞いてあのアニメのオープニングを思い出したと、小さく笑いながら伝えて。)ん?俺を覗きに来ても何も面白いことは無いと思うが…3年の教室に遊びに来るならいつでも歓迎する。(何やら気恥ずかしいことを言われた気がするが本意は掴めない。特にトークが上手いわけでも面白い遊びを知っているわけでもないが、彼女が尋ねて来たなら快く受け入れる気持は伝えおき。無邪気にはしゃぐ彼女からは年齢よりも少しだけ幼さが感じられて、きっと可愛くて仕方が無いけど苦労もするだろう、と今は知らない兄をひっそりと想像していたが。)―…ん?(彼女の呼び声に反応すると示された場所へと歩を進めて。これ、と指差された花を見つめる)ああ、ガーデンシクラメンだな。それからこっちは…―(知識をひけらかすつもりは無いが。花に関心を持ってくれたことが嬉しくて、珍しく口数が多くなる。変わらない日常が新鮮味を帯びた時は穏やかにゆっくりと過ぎゆく。)
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