(少し秋風が吹く、涼しい朝。篠井は薄手のパーカーを制服から羽織り、登校してきた。目的の彼はまだ来ていない様子。靴箱をみて、ほっと吐いた優しいため息でそれが分かる。−−彼はいつくるのだろうー…遅刻もありうる…なんて考えながら靴箱で待つその姿。教室までいけばよいけれど、何故か照れくさい。)黛くん、チャイム鳴る前に来てくれないとあたしのものになっちゃうぞー(なんてぼそっと小さく呟きながら、視線は何度も扉のほうへ)あ、黛くんおはよー。(目的の彼が遅刻してこなかったら、笑顔いっぱいの篠井の姿がそこにはある。そして来るなり例のものを彼に差し出そうか。)これ、遅い遅い誕生日プレゼントですっ。黛くんクレープおごってくれたお礼。(中身は彼が似合うだろうと思って選んだ青と空色が混ざったニット帽。今の季節に合うとよいが。そう思いながら彼が受け取ってくれたならば、「それでは!また教室で」と、照れくささからその場を早々と後にする彼女の後ろ姿があったはずーー)

(徐々に過ごしやすくなってくる今日この頃。黛はいつも通りギリギリに起きて、いつも通りギリギリの時間に投稿する。彼にとって寝坊ではなく、平常運転で。始業ベルのなる5分前に校門を潜り昇降口へ。)あ、篠井さん。おはよぉー。(口を開くと条件反射で欠伸が出て、眠そうな声で出迎えた彼女に挨拶を。こんな時間に下駄箱にいるなんて珍しい、寝坊か?なんて思っていたら彼女が手に持っていたものを差し出してきて。)え?これ俺に?(これを渡すために待っていてくれたのか、お礼を言おうと思ったが、その時にはもう彼女は歩き出していた。)篠井さんありがとー。(と、後ろから声を掛けたのは聞こえただろうか。上靴に履き替えてから包みを開けると暖かそうなニット帽が顔を覗かせる)あれ、俺篠井さんにこの色好きって言ったっけな…。(独り言を呟いて、ゆっくりいつものペースで教室へ向かう。今日もぎりぎり遅刻を免れた)