撫木センパーイ!いますかーッ!?

(放課後。いつもならまっすぐ部室へ向かう所だが、今日は2階へ。ホームルームを終えてすぐに来たが、目当ての彼女はまだ残っているだろうか。バスケ部の彼女のことを知ってはいたが、クラスまでは把握していなかった。各教室から生徒たちが続々と出てくる中。見ず知らずの先輩たちに「撫木センパイって何組ッすか?」と聞いて周ること数回。ついにクラスを突き止めた。)撫木センパーイッ!いますかーッ!!(教室前で叫ぶ松原。その声量は放課後のざわつく廊下でも目立つほど。)

我の召喚には早口言葉が必要である。得意な早口言葉は?

(昼食を経た後の授業は何故こうも眠いのか。なんとか耐え切ったその時間を振り返っては、欠伸を噛み殺しつつ至極緩い動きで荷物をまとめ、さて部活だと鞄を持ち上げたタイミング。震えた携帯に表示されたポップアップは、あんた何したの、なんて友人のからかうような内容だったのだけれど。首を傾げるより先に大きな声が己の名を呼べば、理由は考えるまでもなかった。)はーあーい。まつばらくんすっごい目立ってんよ。(返事は少し大きめの音で。続けた言葉は笑声混じり。彼の方へ歩み寄れば、)どーも初めまして。しゃべる木こと撫木です。さて、例のブツは部室向かう途次でよいのかい?(自己紹介は簡単に。続け様に問えば、一先ず爪先は自販機へ向けるつもり。)

マジか!とーきょーとっきょきょきゃきょきゅ!よし!

(ただでさえ目を引く明るい金髪が、大声を出しているとあってはどよめきが起こるのも当然で。怖そうな見た目も相まって廊下内ではあまり良くない意味で注目の的になっており。)あッ、いたいた!撫木センパイ、チーッス!(彼女の姿を確認できれば嬉しそうにブンブンと手を振って。そのとき近くに立っていた男子生徒にぶつかってしまい、「あッ、さーせん。」と小さく謝罪を。)え?目立ってる?やっぱ2年の教室に1年が来たら目立つかー!まあしゃーないな。(外見と声が原因とは思わなかったようで、あっはっはと笑いながら頭を掻きながらあっけらかんと。近づいてきた彼女に軽く頭を下げ)ご丁寧にどうも!はじめまして、松原隼人っす!っつーかセンパイやっぱでかいッすね、俺とタッパ変わんねェな。(自分の頭に手を添えて、水平に彼女のほうへと動かしながら感心したように)おっけおっけ、んじゃ行きましょーか!(ニカッと笑っての返答の後、階段へと歩を進めて。向かう先は1階にある自販機前。)

残念。それでは召喚されるのはただの木です。さ、もうひと声!

ちーっす。(緩くも返す挨拶は体育会系ならではか。小さな衝突を目撃すると「視野は広くだぞ、バスケットマンくん。」そんな戯れのような言葉で笑う。彼の言うように他学年の生徒が居る、と言うのも注目を集める理由のひとつだろうけれど、)まつばらくんは人見知りとか緊張とか、あんましなさそうだの。人前でも堂々としてそう。(仕方がないと一言で片付けた彼の様子に漠然とした感想をひとつ。人目を惹く容姿はそれだけでも視線を集めるだろうに。素直に羨ましさも抱きつつ、身長に話が移れば至極真面目な顔で、)目指せ170。あとホントちょっとなんだけど、これが中々伸びなんだ。まつばらくんは170はありそだね。(足りないのは牛乳か睡眠か、運動だけならそれなりにしているつもりなのだけれどと。牛乳の摂取が身長と直結しないことはこの際、置いておくとして。彼の了承が得られればふたり並んで向かう先は1階。慣れた廊下を部活に遅れない程度の速度で進みながら、)まつばらくんは普段スポドリ以外だとなに飲むん?(そんな他愛ない会話も投げ掛けてみたり。)

ぐぬぬ…!ブスバスガイドバスバスガスハツ!どーだ!

(先輩からのやんわりとした指摘に、痛いところを突かれたと思いながら「いやマジで俺、ちょとつもーしん型なンだよなー」と照れくさそうに頭を掻いて省みるのか。)んー、堂々としてるッつーか、普通にしてんのに馴れ馴れしいとか厚かましいとか散々言われるぜ!…あれ、撫木センパイって人見知りなんスか?(まつばらくん"は"ということは彼女は違うのか。意外、とでも言いたげな顔で瞬き二つ。身長の話には真剣な面持ちで乗っかる彼女に、何故かつられて真顔に)確かにそんな感じだな。俺は今ちょーど170だから、ホントにビミョーに足りてないッスね!(最後にはアハハと笑いながら。しかし彼女の背丈は女子の中でかなり高い方で、それに対し自分は…と、その先を考えるとネガティブになりそうで、思考を止め唐突にブンブンと頭を振って。自販機へと向かう道中、会話は途絶えることなく)そーだなー、とくにコレ!って決めてるもんは無ェなー、期間限定品とかあるとすぐ試すけど!あ、センパイ知ってます?焼き芋味の飲み物!(ふと思い出して話題にあげたのは、年末実家に帰る際、駅の自販機で買ったホット飲料。コンビニなどでは見かけないのでマイナーなのだろうか。「ありゃビミョーだったな」なんて感想を。そんなこんなで自販機前へと到着し、)センパイセンパイ、俺これがいい!(と、指さしたのは"1本でレモン50個分のビタミンC"を謳い文句にしたスポーツドリンクで。ねだりつつも「センパイはこの中だったらどれが好きっすか?フツーの?ゼロカロリー?」と彼女の好みを聞いておこうと。)

あ、僕が知ってるのとちょっと違う。びっくり。

したらばディフェンス力も強化せねばやの。(止めに行くのも真っ向からではコースも読まれ易いだろうと、ぼんやり想像する試合シーン。スタミナはありそうだなんて勝手な印象はオプション的に。)僕は用事あれば話し掛けられるけど、あんま知らない相手にはぐいぐい行けないタイプ。たまにこう、そのジュース美味しいよねーくらいは気軽に言えるようになりたくなる。まつばらくんはお友達多そう。(人見知りではないような気もするし、然し、さて。概念の話になると途端に難しくなるからそこは話の矛先を彼へ移すことで切り替えてしまうとして。純粋な羨ましさを滲ませた声色に彼は気付くだろうか。微妙に足りてない。その発言に軽いダメージ。)くっ、――こうなったら牛乳か寝る時間増やそ。まつばらくんはまだまだ成長期だし、きっともっと伸びるんだろうなあ。(新たな決意はどこまで続くか。そもそも自分にもまだ成長期は残っているのだろうかとなんとも複雑な思考回路が巡る。まあ、それも焼き芋味の飲み物という衝撃に霧散するのだけれど。)焼き芋味は知らぬ。なにこう、どろっとしてたり?僕はチョコ味の炭酸水なら飲んだことある。めっちゃ微妙だった。たまにホント、なんぞこれって感じのが限定的に出てすぐ消えてくけど、やっぱ僕らみたいな怖いもの飲みたさな衝動を持ってる人をターゲットにしとるんだろうねえ。(変わり種を素直に美味しいと感じたことはそういえばないような気もする。けらけら笑いながら辿り着いた目的地にて、「ほーい。」とひとつ返事とともに鞄から取り出したコインケース。ちゃりん、と独特の音を立てて小銭が自販機へと吸い込まれるとリクエストされたドリンクのボタンを押して取り出し口から救出。)はい。改めましてテストあーんど、風邪撃退お疲れさま。たっぷりビタミン摂って、今日の部活も乗り切ろうぞ。(にっ、と破顔しては冷たいペットボトルを差し出した。問い掛けには「僕はこれかなー。CM可愛かったし。」そう言いながら指したのは緑のハートが印象的なスポーツドリンク。脳裏には軽快な音楽と子役の女の子の笑みが浮かぶ。)

へー!センパイのとこでは何て言うんスか?

そーっすね。ディフェンスは苦手だな、スティールだけは自信あッけど。(「むぅ」と小さく唸り。スピードとクイックネスは取り柄だが、単純なのですぐフェイクに引っかかる。確かにディフェンス力の強化は課題で。)まァよく知らねーヤツに話しかけるって勇気いることなんかもな?俺も声かけた時にテメェ誰だ?みたいな顔で見られることよくあるしな。おう!ウザがれっけど友達は多いっすよ。(へっへーん、と嬉しそうに答えて。)だけどセンパイも友達多いんじゃね?しかもトークもおもろいからモテるんじゃね?(彼女の言葉の裏にある「羨ましい」をくみ取れなかった松原は、そう言うと歯を見せて笑って。)牛乳より睡眠じゃないっすか?寝る子は育つってゆーし。俺は今成長止まったらヤバイな!最低でもあと10センチはほしいぜ!(実は中3以降背が伸びていない。密かに気にしているところであったがそこは伏せ、彼女の向上心に乗っかるように「背ェ伸ばすぞー!」と声を上げ。)イヤ、それが意外とサラッとしてて…焼き芋飲んでるみたいだから再現力はスゲェ。それは認める。だけんどちょー甘ェの。…チョコ味の炭酸って飲んだことないけど聞いたことはある!チョコレート入ってないらしいっすね!マジで限定品って完全にネタなもん多いよなー。美味しくないってわかってて買っちゃうんだから、俺ら完全に踊らされてますね。(一緒に笑いながら談笑を楽しんだ。手渡されたペットボトルを受け取って、)あざーっす!ごちになりまーす!(嬉しそうにボトルを持った手を振り上げて軽くお辞儀し。彼女の答えには「おーこれか!これもウマいっすよね、あと同じシリーズの麦茶も!」と言うとポケットからむき出しの小銭を取り出して自販機へ投入、該当のボタンを押した後「センパイもテストお疲れ!部活ファイトー!」と言いながら彼女に手渡し、コツン、とそのペットボトルに自分のそれをあてた。「ほんじゃ、部活行きましょーか」と、共に部室へ向かいながら会話を続けて)

バスガス爆発ブス自爆。すごいこと言うよねー。

今度まつばらくんが試合出る時声掛けておくれよ。応援行く。(言葉通り純粋に応援に行きたい気持ち半分。試合中の彼が普段とどう違うのか知りたい好奇心半分。その時に持っていくなら何がいいだろうかと自分が嬉しい差し入れを浮かべながら。)そんな、てめえ誰だみたいな顔で見られたら僕多分ひえっ、ってなる。ひえっ、って。まつばらくんはそして年上に可愛がられてそうなイメージ。お菓子あげるーみたいな。(それは己も含んでのことかはさておき、)モテ、………もて?友達は基本決まった面子とばっか居るけど、とは言え少ないってことはないと思われ。クラスとか部活とか一緒なら何かしら喋るし。でもモテはどうかなー。モテたらごはんいっぱいご馳走して貰えるのかなあ。(明らかな下心は隠すこと無く吐露しつつ、純粋に嬉しさも覚えるのは社交辞令には感じなかったからか。)あと10も差を付けられたら出会う度にまつばらくんに膝かっくん繰り出してしまうかもしれない。(応援したい気持ちと比例するような衝動は自分ではどうしようもないと棚上げする気満々。一先ず睡眠時間増やそうと抱く決意は胸中でひそかに。)えっ、……サラッとしてる焼きいも、――えっ。想像に難しいな。でも確かにすんごい甘そう。ひと口だけ飲みたい。……あ、そいえば飲んだのになにが入ってるとか見とくの忘れた。でもアレってチョコ入っとらんのか。最近の化学はすげーな。今度なんか見掛けたらまつばらくんにプレゼントフォーユーすんね。その時は感想だけ聞かせとくれ。(傍観の姿勢であるにも関わらず要求だけは忘れず紡ぐのだからちゃっかりしたものである。「いえいえー。」そうお礼には短く返したと思ったら、あれよあれよ。気付けば自身の手には彼が買ってくれたドリンクがあって、)まつばらくんは結構イケメンなトコもあると。ん、でもあんがと。今日も部活がんばれそー。(軽い乾杯に揺れたペットポトル。へらりと緩んだ笑みを浮かべれば「へーい。」とその返事が早いか、爪先を共に部室へと向けるだろう。その道中の会話は短かったろうけれど、じゃあねとそれぞれの部室へと別れた後も撫木は傍目から見てもご機嫌であったはず。)