子供は苦手…。

(冬休みも終り再び学園生活が始まっていた。放課後使い切ってしまったリップグロスを買い足す為に制服姿で訪れたのは駅前のショッピングセンターChouchou。行き付けのショップは2階にある。いつも買う此れか、それとも口コミで評判の其れか。少し悩んだが結局同じ物を求めた。さあ帰ろうと1階に向う所、エスカレーター近くの壁際で蹲る3歳位の子供が目を引いた。親と逸れたのだろうか。1階の総合案内所まで連れて行けば親を呼び出してくれるだろう。とりあえず近づいて目線を合わせようとしゃがみ込む。)…どうしたの。(元来目つきの悪い白鳥。にこりとも笑わず声を掛けたものだから子供は泣き出してしまった。)…え、え、ごめん(これではまるで虐めているみたいだ。ぐずる子供と戸惑うギャルという不自然な構図。)

なんで?無邪気な心についていけない感じかな?

(冬休みも終わりクラス分けテストもこなしやっと自由の身。本屋でも寄って帰ろうと考えていた矢先に幼馴染からの『ハンドクリームきれたから買って来て!!』というメッセージを受信。ちょっと無視していたら『未読スルーしてんじゃねぇぞ!!』『通知で確認してんのバレてんだからな!!!』と続けざまに文句が送られてきた。正直、うんざりしてるのが顔に出ていただろう。一気に老けた気がする。テストのせいではなく。近場の本屋からショッピングセンターへと行先変更。先におつかいを済ませてしまおうとエスカレーターを昇ったところで目に飛び込んできたのは)……ぅわ。カツアゲ?(泣き出す子供と金髪ギャル。周りは遠巻きに見ているだけ。心なしか金髪ギャルが困っているように見えるから男の足は自然と動いた。)何で泣いてるの〜?痛いところでもあるのかな〜?(にこやかな笑みを浮かべては彼女の隣にしゃがみ込んで。声は努めて明るいもの。それからちらりと視線を横に移し「何があったんです?」と彼女に向けて状況説明をひそひそ声で求めるのだ。)

そんな感じ。突飛だし、接し方がわかんない。

もう、何で泣くかな…。(泣きたいのはこっちだと言いたいのを堪え、子供の背中を撫でようとも躊躇ってしまい結局手を伸ばせない。子供相手でもコミュ障は健在だ。如何しようもなくこのまま泣き止むまで待つかと諦め半分でいた矢先。ふと視界に映る青年の姿。物腰柔らかで明るく優い声。其の言葉にぐずぐずと泣いていた子供も少し落ち着いたらしく静かに目を擦っている。…私とは大違いだ。そう思いながら2人を見ていたら彼の視線は此方へ向けられて。目が合うと反射的に視線を逸らしてしまう。彼の問いに少し悩んで「…迷子だと思う。」とだけ、同じように小声で答えよう。子供が泣いているのに保護者が駆付けて来ない処から間違い無いだろうから。程無くして「…ママ」と子供が震えた声で呟いた。)………悪いけど、一緒に総合案内所まで来てもらえない…?(おずおずと彼に向き直り助けを乞う。人見知りなのにこんな事を頼めたのは彼が良い人そうだからか、同じ高校の制服を着ているからか。初対面を相手に不躾だが自分では如何にも出来ない、また泣かれるのが落ちだろう。気まずそうに見つめながら、彼の返答を待って。)

思い付きで動いてるから俺らには想像つかないよね。

(逸らされた視線。それでも男は彼女を見据えたままだ。彼女から返ってきた答えによって、ほっと胸を撫で下ろした。)迷子かぁ……てっきり君が泣かせたのかと思ったよ。ごめんね。(自身の勘違いが恥ずかしくなったのか、へらりと緩い笑みを浮かべては照れくさそうに謝罪の言葉を紡いで。「このおねーちゃんいい人だよ〜」と目の前の迷子に笑顔を向けるのだろう。)ん、俺でよければ。……よしっ。じゃあママに会えるところまで行こっか。おにーちゃんとおねーちゃんが一緒だからヘッチャラだね!(元気づけるような声は努めて明るく。ひょいっと立ち上がったのなら「はいっ。手を繋ご〜!」さも当たり前のように迷子と手を繋いだのなら)おねーちゃんも繋いでくれるよね?(と彼女の方へ視線を向けた。迷子も恐る恐る手を伸ばそうとしているようだ。)

自分にもそんな時期があったなんて、考えられないね。

(目を逸らしても彼の目線は未だ此方を捉えている事が分る。人に見られるのは落ち着かない。彼には見えない角度で、耐える様にぎゅっと拳を握った。続く謝罪の言葉に罪悪感を覚えていた。俯き加減で逸らした目を再び彼へと向ける。)や…その解釈は間違ってはないんだけど。迷子だと思って声かけたら、泣いたっていう…。(元来嘘は吐けない性格。結局事の顛末迄述べる事に。情けない事に話しながら顔は下へ下へと向いて行った。子供に声掛ける彼を見る度、慣れてるなと感心するばかりで。弟や妹でもいるのかと推察していた所、)えっ…(不意にぶつかる視線。一瞬驚いた様に目を見開いて)う、うん、そうね。おねーちゃんも繋ぎたいな。(先の反省を活かして対応せねば懸命に口元を緩めようと。硬いが一応笑い掛ける事には成功。彼の助力も相俟って子供の警戒心は抜けて始めている様だ。恐る恐る伸ばされた小さな手、此方もそっと手を出し包む様に軽く握って立ち上がったなら子供の歩幅に合う様ゆっくりと歩き出そう。)…ありがと。(小さく呟いたのは彼に届かなかったかもしれない。…如何なる事かと思ったが彼の御陰で白鳥自身も安心した様。先程より幾らか自然に柔らかい表情を浮かべられていた。)

…確かに。あの頃はどうやって動いてたんだろうね。

あれ?やっぱ君が泣かせちゃってたの?(ふはっ、と柔らかく笑みを浮かべた。そこには咎める色は一切ない。「でも急に泣かれちゃったら吃驚するよね。きっと、俺でも。」少々照れくさそうに語るのは自分も上手く立ち回れる自信が少々なかったからで。最初に声を掛けた彼女を素直に褒めようと、ぽんっと肩に手を置いて労うのか。)……ふっ、くくっ。……おねーちゃんいい人だね〜?(少々強引なお誘いにも拘らず素直に手を取った彼女のぎこちない笑みに、男も笑みが零れた。その笑みを噛み殺したがために、ちょっと意地悪な雰囲気が流れたかもしれない。子供の歩幅に合わせてゆっくりと歩みを進めれば)ところで総合案内所の場所ってどこか知ってる?(小さく首を傾げつつ、手を繋いで元気になってきた子供に聞かれぬよう、そっと彼女にだけ囁いた。)

幸せ、だったんだろうな。…自分中心で世界が回るから。

………………………うん。(長い沈黙の末、観念したかのように返事一つ。しかし彼の反応が意外にも優しかったので俯いた顔を僅かに擡げて不思議そうに瞬きを。続く彼の言葉には「…貴方だったら、泣かれないと思うけど。」と素直な見解を述べつつも僅か安心したように表情を緩めた。肩に置かれた手に一瞬驚いたようだ、ぴくりと反応したのは彼に気付かれたかもしれないが、此処は彼のフォローに対し「…ありがとう」と小さな声で呟き平静を装う。)なっ…(笑われた事が気恥しく、自分でも判る程顔に熱が集中する。繕った笑顔は瞬く間に崩れ目を白黒させた。そんなに変な笑顔だったのだろうか。気になるが其れを聞ける様な間柄でも無いので再び下手な笑顔を作ってみせて。狭い歩幅で進みつつエスカレーターを降りたところで彼からの問いが投げ掛けられた。彼が小声で話掛けてくると釣られて白鳥も小声で応える。)…入り口のすぐ近くだけど…駅前の入り口じゃなくて、南花鶏側の方。(あっち、と小さく指差しながらその方向へ向う様に促しつつ。)…此処にはあんまり来ないの?(子供の表情が明るくなった事で気持ちに余裕が出来たらしい。総合案内所の場所を知らないと云う事は普段は買い物に来ないのか、と素朴な疑問を。)

あれ?じゃあ今は?不幸せになっちゃった?

(正直に認める姿にますます男の笑みは静かに深くなった。「そう?俺だって泣かれちゃうときはあるよ〜」なんて軽く答えた男の口元はへらりと緩んでいるのだろう。労ったあとの手はすぐに肩から離して。彼女の反応があったからではなく、単に「セクハラ〜って言われちゃうかな?」と冗談めかして危惧したことを告げよう。)……っくく、…あんまり笑うと、せっかくおねーちゃんが笑ってくれたのに、またしかめっ面になっちゃうね。ふ〜〜〜…笑顔にしてくれるね、きみ。(一通り笑ったのち「ほら。」と顎で促した先にいるのはもちろん子供。その子も自然と笑みを浮かべているのは、きっと彼女が微笑んでくれたから。)…あ、なるほど。あっち側か。たまに来るんだけど、行く店が決まってるからそれ以外のことは把握してないんだよね。(彼女が指さした方へと男も足を進め始めれば、疎い理由を告げよう。「こっちのフロアは初めて来たんだ。」とまるで初めてのお客のようにおどけてみせた。)

え、どうかな。深く考えたことなかった。

(優しそうな風貌に穏やかな声遣、面倒見の良さも兼ね揃えた彼でさえ子供に泣かれる事は有るのだろうか。俄には信じ難いが仕様も無い嘘を吐く様な人にも見えず「え、そうなの?」と少し意外そうに瞬きを。彼の手が直ぐに離れて行けば内心安堵したが続く言葉に「えっ」と小さく漏らし身を固くし「いや、なんか…ごめん」と思わず謝罪の言葉が口を衝く。完全なる深読みだが彼の口振が自身の反応を気にしての物だと思った為だ。)…そこまで笑わなくたって…(悪気が無いのは解っているが堪えつつも笑いを隠せない彼の様子に見る見る頬が紅潮して行く。此方は色々と必死だが彼は随分楽しそうなので心中は複雑である。「別に、貴方を笑わせようとしたんじゃないのに」と口を尖らせて拗ねたように呟く。そもそも始めの彼の振りは自分には荷が重すぎたと思いを燻らせ言葉にしてしまいそうな折、彼の一声に子供へと視線を向ける。其の子の笑顔に思考も落ち着いたようで「あ…」と言ってしまいそうだった文句は消えて。代わりに目を細め今日一番の穏やかな表情を浮かべた。)…男の人って、目的がないのに無駄に歩いたりしないって言うものね。(世間一般論だが彼には当て嵌まるらしい。成程納得しながらも歩を進めれば程無く目当ての総合案内所へと到着した。カウンターで事情を説明すると従業員が館内アナウンスを始めた。)あの…ありがとう。助かりました。(未だ保護者は現れないがきっと直ぐに迎えに来るだろう。)

じゃあ幸せ継続中って感じだね(笑)

泣かれちゃうから、泣き止ますのが上手くなったのかもね。(ちろりと視線を持ち上げながら自分に対する考察を一つ。「あれ?君が謝るの?」ぷっと思わず噴き出して笑った。寧ろこの流れなら謝罪するのは己の方であるはずなのに。先回りで受けた謝罪に存外、男は楽しそうな雰囲気を纏った。)ははっ、ごめんごめん。大丈夫、もう笑ってない笑ってない。(笑いをこらえた男は、口を真一文字に閉じ双眸をキリッとさせたのなら彼女へと振り向いて。こらえるとまた笑いが込み上げてしまいそうになるから不思議である。だがしかし拗ねた様子の彼女を見れば、そろそろからかうのを控えようとした。その刹那。「……そんな表情もできるんだね。」きっと滅多に見られないかもしれない穏やかな彼女の表情に得した気分になる。つられるように男も目元を緩めたのなら)なんかね、合理的なことを考えちゃうんだよね。(寄り道はすれど目的もなく彷徨うことはしない。スマートな行動を心掛けてしまうのは男としての習性かはたまた単にこの男の性格によるものか。──総合案内所でアナウンスをしてもらえば)ん?ああ、どういたしまして。って言ってもホント俺は大したことしてないけどね。(保護者が現れるまではこの場で待つつもり。きっとすぐ迎えに来れば安心して迷子だったあの子の姿を見送ろう。)さてと。俺はおつかいを済ませて帰るけど……最後に君の名前聞いてもいい?同じ学校でしょ?(見慣れた制服を纏うもの同士。またいつか会うかもしれない機会に賭けて彼女の名を問うてみた。)

な、なるほど?ちょっと変わった考え方をするのね。

そうなんだ…意外と苦労人なんだね…。(彼の纏う雰囲気がそこはかとなく弟に近い様な気がして、きっと世渡り上手で何でも器用に卒無く熟すのだろうと勝手に思っていたが。気を使わせてしまったと思い発した謝罪の言葉だが彼からの問いで「えっ?…あ、そっか」と初めて自分の受答えが可笑しかった事に気付いた。楽しそうな彼の様子とは裏腹に、見当違いの発言をしたと云う羞恥に顔を赤らめ其れを隠す様にと熱が落ち着くまで俯いていた。)うっ…なんか、………いや、なんでもない。わかった。(「なんか、子供扱いしてる?」と言い掛けたが飲み込んだ。其の発言そのものが子供みたいだと思って。結果的に含みを持たせた「わかった」に成ってしまったが。何にせよもう笑って居ないようなので此方も一安心して冷静になっていた。続く彼の呟く様な言葉には首を傾げ不思議そうな反応を見せた。無意識だったので自らの表情が良く判っていない様だが彼の優し気な表情に、きっと変ではなかったのだろう、と穏やかな気持ちのまま。)そう…まあ、無駄が無いって良い事だよね。(用も無いのにぐるぐると歩き回る自分とは正反対と思いつつも彼の考え方を認める姿勢で。――無事に保護者と帰路に着く子を傍らの彼と見送って。何だかんだ気を張って居たので緩んだ拍子に「はぁ」と溜息一つ。但し彼から問いを投げ掛けられるとまた少し緊張した様でぴんと背筋が伸びた)あ、うん。…3年3組の白鳥。えっと、貴方は…?(名前を訊ねられると苗字だけで答えるのは昔からの癖。胸中は「親から頼まれておつかいに来ていたなんて偉い」と勘違いしながら何となく此方も聞き返してみた。)

そう?楽しいことは続いてる方が絶対いいと思うんだよね。

苦労は買ってでもしろって言うじゃない?だから別に全部俺の糧になってるし有難いことだよね。(あくまでも前向き。鋼のメンタルを持った男はピンと背筋を伸ばし歩くのだろう。)納得してくれちゃった。(思わず笑い声が零れそうになったけれど、ギリギリのところで堪えた声色はポップなイエローカラーが似合う嬉々としたもので。この辺は許されたいと願い、ちらり彼女の方を盗み見た。)最短ルートで欲しいものだけを手に入れて帰る、そんな感じ。だから新しい発見とか俺はなかなか出来ないのかも?(ははっと軽く笑い飛ばせば、まあ目的も達成できたというワケで。そろそろ解散だろうか。)俺は3年2組の進藤英吉。お隣さんだね。学校でも会えそう。(近いクラスと分かればきっとまた会えると勝手に期待して。「それじゃ、気を付けてね。」と告げる頃には感謝の意味も込めて彼女の頭のてっぺんをぽんっと一つ撫でやった。応酬が来る前にそそくさと退散すればおつかいを済ませて帰路に着こう。次に会うのは学校でだろうか。その際には“白鳥さん”と名前で呼ばせてほしいところ。)