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(1階貸出カウンター前で困惑気味に立ち尽くす男が独り。)
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(そういえばと思い出したのは冬休みも終わりかけの時だった。休み前、気紛れにと借りた図書館の本。返却期日が迫ってる訳でもあるまいし、始業式の日に持ってきても然して問題はなかったのだけれど。借りてることを思い出したのも偶々となれば、忘れる可能性の方がどうしても高かったから。思いついたが吉日とばかりに財布と携帯をダウンジャケットのポケットに突っ込んで、本片手に訪れた図書館。休みということもあってか当番の生徒は勿論のこと、司書の姿さえ見受けられない。)…………あー……しくった。(貸出カウンターの前、ぽつりと困惑気味につぶやく男がひとり。休み中ともなれば登校している生徒さえ少ないだろうし、さてどうしたものかと思案しながらも、きょろりと図書館内部を見回した。誰でもいいから、いないものかと。そんな切実すぎる願いはさて、誰かに届くだろうか――?)
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冬休みなのに図書館…もしや常連さんってヤツですか?
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(三が日を過ぎて部活が始まった。今日の練習は午前で終わり、バイトは休みなので午後は完全オフ。制服に着替えて後は帰るだけなのだが、実は冬休みの課題が微妙に終わっていない。夏休みは結局終わらず叱られたので今回はやらねばと、意を決して図書館へ。2階の自習スペースで唸りながら課題に手を付けること数時間。)終わ…ったァー…。(疲れ切った姿で帰り支度を済ませて階段を降りると、貸出カウンター前に人の姿が)あっれー…俺、頑張りすぎて幻覚まで見えるようになッちまったんかな(はははー、と自嘲気味に笑いながら。近づいていくとそれは幻覚ではないことに気付いて。)…あれ、どうしたんすか?(困ったように辺りを見回す姿が気になり思わず声を掛けてみて。)
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図書館はあんま利用しないなぁー。だって漫画無いし?
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(しんと静まり返った図書館内に、微かだが聞こえた足音。上から聞こえてくる様な、――ともすれば人を求め過ぎて幻聴でも聞こえてるのかと錯覚するレベルではあったけれど。定まらず彷徨っていた視線が、突如として飛び込んできた金髪を捉えた。遠くて聞こえなかった彼の呟きはさて置き。此方へと近付いてくる様子に、にんまりとそれはもう得物を見付けた狩人の様に嬉々とした笑みを浮かべ、「ちょーどいいところに。」なんて呟いてから、)コレ、返却したいんだけど……司書サンが居ないじゃんね。メモか何か張り付けて、カウンターに置いてっていーと思う?お前ならこーゆー時どーする?(すっと持ち上げて、手中に在る本の存在を彼にもアピールして意見を求めるとしよう。)
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うッわー!俺と全くおんなじ意見じゃないすか!(笑)
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(声を掛けたは良いものの、相手の浮かべる笑みにそこはかとなく恐怖を感じていた。そして声を聞いた瞬間、言葉の意味を理解する前に衝撃が走る。)ぇえッ!?あー…えーと…(その容姿から相手は女子だと勘違いしていた松原。予想外に声が低いので面食らったようで、頬をわずかに赤らめながらも喋ろうとするが歯切れが悪い。そこで落ち着かせるために一呼吸おいて)…いや、いやいやいや。今日休館日じゃねェし、図書館開いてるッてことは司書サンはいるんすよ!ちょっと今トイレ行ってるだけだと思う!だから待ちましょー、ね?(根拠がないわけではない。自分が図書館に入ったときは受付に人がいた。カウンターに置いておくのはマズい気がする。どうせヒマだからと自分も一緒に待つつもりで、ちょっと苦笑いしながらも提案をしてみて。)
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やっぱ漫画は必要だよね〜。因みにジャンルは何がスキ?
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………ちょっと、そんなに驚かなくてもよくなぁーい?なんか驚かせる様なコト言ったつもりもないんだけど。(一応は存在の認識はされていたみたいだから、驚かれた理由は察する事が出来ない。笑顔から一転、じとりと訝し気な視線を送る。頬が赤くなった訳も分からず、疑問点は持ち上がるばかりだ。)へぇー、そーなの。あんま利用しないからわかんなかったや。まじトイレ行ってんならそーゆー札用意しといてほしいもんだね。すぐ戻ります、的な。ま、教えてくれてありがと。(彼の言の葉にぱちくりと瞬いたかと思えば、持ち上げた本をそっと下して体勢変えたのならカウンターに寄り掛かる。)てゆか、お前見た目に因らず真面目なんだねぇー。テキトーに置いてけば?って言われるかと思った。……ね、名前、なぁーに?オレはね、2年のこーが。後閑遼。(よろしくねぇー、なんてゆっるい挨拶を。)
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必要必要!好きなのはスポーツ漫画だな!センパイは?
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や、そうなんだけど。はは、は、さーせん(不審に思われるのも当然だが、初対面の相手に女子だと思った、だなんてあまりにも失礼だろう。明後日の方向へ視線を逸らし、笑いながら曖昧にやり過ごそうと。彼の感謝の言葉には「いーえ」と軽く返して。)たしかにー!まァ今は冬休みだし全然人いないからちょっとくらいいいやーッて外出したんじゃねェかな?(っつーか普段利用しないのに何でこんな日に来てンだ?と疑問を投げかけようとしたが、そういや自分も同じだったわ、と思ってやめる。)いやッ、全然全くこれっぽっちも真面目ではねェけど、本が行方不明になったら弁償だし。それはヤバイ!(金銭事情がシビアな松原。バカでもそういうところには頭が回るらしい)…おおッ!!生こーがセンパイ!俺、1年の松原隼人っす!よろしくおねがいしまーす!(ノートで度々見かける彼の文字。どんな人か気になっていたので、会えて嬉しい、という気持ちを露わにニカッと笑って軽く頭を下げた。)
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お、スポーツ漫画いーねぇー。オレ、バトルものがスキ。
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……………ねぇ。なんで驚いたのか、教えてくれる?(明後日の方向を向いた視線を此方へと向けるように、彼の眼前でひらひらと手を振っては「ほらぁ、お話する時は相手の顔見なきゃだめでしょ?」なんて年上ぶった言の葉も付足して。)それもそーか。いつもならちらほらいるもんね、利用者。今日はお前以外いなさそうだし、……ってゆか、そっちは何しに?2階にいたみたいだけど、本でも借りに来たの?(常連感がないのはお互い様で、休みであることも考慮すれば湧き上がる疑問は後閑の中では当然。そのままぶつけた問い掛けは単なる好奇心と言えるだろう。)あっははは、自分で全くこれっぽっちもってゆっちゃう〜?素直だなぁー。……ま、例え本が失くなったとしても生徒に弁償させたりはしないと思うけど。説教はされそーだし、そのリスクは避けるべきだよねぇー。(ふむふむ、彼の言葉に楽観的な考えを返しつつどこか納得した様にも頷いた。)あ、お前が松原?はじめまして〜。まさかこんなトコロで会えるとはねぇー……でも一回話してみたかったから、よかったカモ。はぁーい、よろしく。あ、一応センパイだけど敬語使わなくていーよ?楽にして。(ゆるい笑みで「礼儀正しいなぁー。イイコイイコ。」なんて下げられたのを良い事に彼の頭を一度だけ撫でさせてもらおうか。)
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バトルものもいいな!俺念能力で闘うヤツにはまってる!
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(このままスルーしてくれッ!…という願いも空しく、逃れることは叶わぬようだ。はァ、と溜息ひとつ。気まずそうに彼に目を向けて。)えっと、なんつーか…ちょっとかわッ……じゃなくて。細っこいし、髪なげェし、女子なんじゃねーか…って思っただけだ!!(前半はごにょごにょと喋っていたが、最後はやけくそになったらしくはっきり伝えて。男相手なのにちょっと可愛いと思ってしまったが、「かわいーは男にとってホメ言葉じゃねー」と以前ノートに書いた手前、それを伝えるのは憚られるし何より恥ずかしいので言いかけたが止めて。)いやッ、俺活字はあんま読めねェから本は借りたことないぞ!今日は冬休みの残りの課題をやりに!ギリギリだけど終わったぜー(話の内容が完全なるバカアピールだが本人は楽しそうに笑って。)説教も嫌だよなァ、俺のアニキは大学の図書館で借りてた本なくして弁償させられてたけどな!バカだよなー。(頭を下げたところでふわっとした感触が。それが気持ちよかったのか顔を上げてへにゃりと笑い)俺も会ってみたいって思ってた!いやー、ほんとマジでスゴい偶然!(敬語は使わなくて良いというお言葉に甘えて、いつも通りのかなり砕けた話し方を。…その時入り口に誰かが入ってくるのが見えて。確か、自分がここへ来たときに受付にいた女の人だ。)あッ、センパイ、司書サン戻ってきたっぽい!
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今休載してるやつ〜?あれだと松原は強化系っぽいよね。
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(心中読み解く術や力はないに等しくとも、彼はあまりにも解り易いから。追い詰める楽しさを感じていたのだけれど。予想とは裏腹な理由が伝えられたのなら「へぇー。」なんてどこか納得したような声が落ちる。)まさかそんな誤解されてたとはね〜………なぁーに、ちょっとカワイーって思っちゃったの?(言い掛けただろう言の葉を敢えてピックアップして改めてと問い直す。彼にとっては褒め言葉にならない単語なれど、後閑にとってはさて?――ゆるりと面白そうに細められた眼は、少しだけ見上げる様な形で彼の双眸を見つめる。)え、……てゆか、今日まで課題終わってなかったの……?駄目だよ〜、課題はさっさと終わらせとかないと。でもま、サボらずにやり切ったのは偉いね。おつかれさまぁー。来年からはギリギリまで置いとかないで、ちゃっちゃとやっちゃいなよ。(ちょっぴり先輩ぶった台詞を紡いでは、次いだ彼の兄弟エピソードにふはりと零れた笑い声。「それはカワイソーだったねぇー。お前は借りないなら大丈夫だろーけど、気を付けなよ。」なんて。)あ、ホント〜?そう思って貰えたのはうれしーな。お前ホンットかわいーね。(ノートではバカワイイと称したものの、斯うして会ってみればバカワイイというよりはカワイイ後輩そのものか。思わず緩んだ頬そのままに、視線だけをちょっとだけ動かせば近付いてくる女性の姿。これ返却お願いしまぁーすと本を差し出せばトントンと処理が進み、此れにて返却完了である。)……松原のおかげで無事本返せたよ、ありがとねぇー。ところでお前さ〜、この後ヒマ?話付き合ってくれたお礼にジュースぐらい奢らせてよ。課題がんばった労いも兼ねて、さ。(どう?なんて首傾げては彼の返答を待つばかり、)
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そうそれ!センパイは変化系っぽいな!それか特質系?
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(まさか一番指摘されたくなかったところを突いてくるとは。これは完全におちょくられている。心の奥で気づいてはいたが、それを把握した上でスマートに振舞えるほど頭の回転は速くない。再び問われても上手い切り返しが出てくるわけもなく焦るばかりで)んなッ…んで、そーいうトコ拾っちゃうかなァ!(頬の赤みは増し、「あーッもう!」と奇声を発しながら頭をかきむしって。かと思えばそこでふと冷静に)…そうだよ、ちょっとカワイイって思っちまったんだよ…すんません。(声を出したら落ち着いたのか、少ししょんぼりしながら低めのトーンで謝った。…課題について言及されれば、)もちろん!さっきまで終わってなかったぜ!(それはもう、さも当然といった感じで清々しい程の笑顔で答えて、)こーがセンパイは計画性ありそーだよな。俺はいつもギリギリで生きてッから、ちゃっちゃと終わらすのは難しいや(先輩らしいその台詞は自分を想っての助言と理解はしているが、次も直前まで終わらないのだろうと本音が漏れた。…兄の話で笑ってもらえれて嬉しかったらしい、「カワイソーじゃねぇって、ただのバカオブザバカ!けど俺も同類にならないよう気を付けます!」と自分もははっと笑った。)ええッ!なんか面と向かって言われると照れるな(と言いながらニカッと笑って。からかうための言葉ではなく、ただ先輩が後輩を可愛がる、という意味で捉えたので否定せず素直に喜んでいた。…戻ってきた司書とのやり取りを眺めながら、遅くならなくて良かったな、なんて思っていた。無事に返却を終えた彼の提案には目を丸くしつつ)いやいやそんな、俺はただ立ってただけだし?けどセンパイが良いなら、ありがたくゴチになります!(奢ってもらうのは悪いような気もするが、先輩からのせっかくのお誘いを断らないわけがない。「ささッ、行きましょー!」と、何も決めていないのに図書館を出ようと促して。)
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変化系は自分でも納得出来るけど〜、特質はなくない?
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そこ拾わなきゃどこ拾うのさ。(深まる笑みと共、吐き出した言の葉は語尾にハートマークを付随しそうなほどに楽しそうな音を以て、空気を震わせた。朱が濃くなる彼の顔をじいと見つめたまま、そうしてアップダウンするテンションに「あっはははは!」失礼な男は笑うばかりか。)謝んなくていーよ。カワイイって言われんのもイヤじゃないしねぇー。………アリガト?(揶揄いの色を零にして、疑問符付ではあったけれど先の彼の言葉を褒め言葉として受け取ればお礼を告げよう。然りとて課題に関して自信満々とも見える彼の返しにちょっとだけ苦笑い。)それ、堂々と言うことじゃないからね。も〜、(なんて微か諌めるように。彼を担当する先生方の苦労がちょっとだけ垣間見えた様な気がした。)ん〜、オレはさっさと終わらせたい一心なだけで計画性があるわけじゃないんだけどねぇー……ま、ムリに早く終わらせろって言うつもりはないし、ギリギリでもちゃんと終わらせとけばいっか。(先輩として、何か手伝えることがあればとも思わなくもないけれど。勉強は嫌いな部類でもあったから、敢えてそれ以上言うこともなく。「バカオブザバカ?ただのバカじゃないだけ、逆にすごいじゃん。」なんて彼の兄弟に対して感心したように息を吐いた。ちょっとだけ、笑い交じりだったけれど。)………松原の素直さがまぶしいわぁー……。(ぽつりと所感をそのまま呟いてから、行先も決めず歩き出した彼の背を追う様にして足を動かせば、)自販機?それともファストフード?オレは別にカフェでもいーんだけど。松原お前今、何の気分?(なんて歩きながら行先を決める心算にて問い掛けをぽんぽんと。)
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なんとなくカリスマ性ありそうに見えッけど、違うのか?
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いやまァ?確かに…?(単純な性格なので、そう言われればそうなのかもしれない、と流されたようだ。声を出して笑われれば「なッ…!」と言葉に詰まり、それ以上何も言えなくなって、未だ冷めやらぬ頬の熱を感じるのみだった。可愛いは褒め言葉ではない、とは全ての男性に共通して言えることだと思っていたから、彼の反応は意外そのもので。)え?えー…どういたしまして?なのか?(疑問形でお礼を言われたのでとりあえず同じように返してはみたが。そもそも始めは思わず口をついた言葉だったし、もしかして自分に気を使ってくれたのか?とも少し思っていた。苦笑気味の諫言を聞いてもなお表情は明るく、)確かにー!夏休みの課題は終わんなかったから担任にキレられたし(過去の事なので笑って言うが、咎められた前科があるからこそギリギリでも終わったわけで。前回の件がなければ今回も終わらなかっただろう。)あ、センパイはヤなことは先に終わらせる派なんだな!俺と正反対!(見習わないと、とは思った。思っただけで実際はできないだろうから、彼の存意など知る由もなく真逆であると言い切って。結局最後まで反省の色はないままだった。)えーッ?なんか言ったか?(前を歩く松原には彼の小さな呟きは届かなかった様子、ちらと振り返り聞き返す。)いや、カフェとかファストフードなんてめっそーもない、自販機でいいッすよ!(奢ってもらう手前、少しの差であっても高額になるのは忍びない。「だけど今度はちゃんとメシ行きましょー」と笑いながら。自販機前に到着すればどれにしようかと選びつつ、)そういやこーがセンパイって家どの辺なんだ?(途中まででも一緒に帰れるかもしれない、少し期待を持ちつつ問いかけ。)
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ないよ〜。オレ自身も流される方がスキだしねぇー。
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(どうやら納得して貰えたようだと双眸緩めてにんまり笑えば「でっしょぉー。」なんて嬉しそうに言うのか。流され易いらしい気質も然ることながら、言葉に詰まる様も揶揄う立場としては可愛く映るしそこに性別など関係ない。ただ今この状態での可愛いは嬉しくない可愛いと受け取られかねないから珍しくも空気読んでお口チャック。)そこはどーいたしまして、でいいと思うけど。真似っこさんなの〜?(ゆるゆる。傾ぐ首はどこまでも楽し気に。)それ笑い話に出来るのって結構すごいわ。センセー怒らせんのってあんまなくない?逆に尊敬した。(呈した苦言も明るく返されてはもうお手上げである。それにその経験が今日の彼に繋がったのだと思えば最早言う事はないだろう。微かな吐息にちょっとした感心の色が乗ったのも当然か。「だと思うよ。それ以外でも、ね。」なんて付足したのは今話しただけだけれど、正反対であると様々な面で思ったからに他ならない。)なぁーんにも。気にしないで〜。(ひらひらと軽く片手を横に振れば彼の後ろを付いて自販機へと向かう。500円硬貨を投入し、好きなの押しなよと彼の選択を見守る最中、)こっから10分くらいのトコにあるマンション。結構寮とも近いトコだよ。お前は寮生だったよね〜?(一緒に帰る?なんてゆるりと首を傾けて問うては彼の答えを待つ。その答え如何によっては校門でお別れともなろうが、どちらにしても別れ際までは世間話に花が咲くのは違いない。最後には「今度はゴハン行こうねぇー。」なんて、またを願う言葉を彼に告げて家路を辿るのだ。)
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