「にんにく」連呼すると探し物見つかるってホント?

(昼休みの鐘がなった。ぞろぞろと売店へ向かう生徒たちに逆らって、優は化学室へ向かっていた。ガラガラ、と化学室のドアを開けると、閉めるのも忘れて足早に中へ入って行った。3限の時に自分がいた席のあたりでしゃがみこみ、床をきょろきょろと見回す。が、)…ない…。(優が探しているのは、財布だった。財布と言っても小さながま口財布で、中には昼食が買えるだけの小銭が入っているのみだった。しかし、お金は大事、だ。しかも、)ばーちゃんがくれたがま口……。(立ち上がって肩を落とし、はぁ、とひとつ深いため息をついた。誰かが持って行ってしまったのか…?)

その手のおまじないって、知ってても中々やらなくないですか?

(4限目の授業が終わり、少し遅れて化学室を後にしたのは授業終盤に襲い掛かってきた睡魔が尾を引いてしまったため。まだ少し眠気の残る頭で立ち上がり、欠伸を噛み殺しつつ皆が出ていった扉を潜って廊下に出たタイミング。反対側の扉が開く音がして、半ば反射的に半歩後に下がってどうしたのだろうと覗いた折。)――あ。(こちらに気付くことなく恐らく探し物をしているのだろう様子に、もしかしてと思い当たったのは授業前に見たひとつの光景。そのまま再び化学室の中へと戻って彼の近くへ歩み寄れば、)あの。もしかして、お財布探されてます?(そう問う音は控えめに。)

確かに…でも藁をもすがる思いってあるだろ…?

(一か八か、職員室に落し物の届けがないか確認しに行こうか…と考えていると、女の子の声が。振り返って頷き、)あ、うん、このくらいの小さながま口なんだけど…。(両手で円を作り、探しているがま口の大きさを伝える。「犬の刺繍があって…」と付け加えると、待てよ、と思う。『財布を探しているか』と尋ねられたということは…、)もしかして、知ってる?

じゃあ、この機会に実際やってみたことある人探してみます?

(犬の刺繍の有無までは、残念ながら撫木の記憶には残っていないのだけれど。知っているかと言う問い掛けにはひとつ首を縦に振って肯定を示そう。)さっき、そこ座っとったクラスの子が先生に渡してたんで、多分職員室にあると思います。確かがま口だったから合っとると思うんですけど、(少なくとも自分が拾ったわけではないから、細かいデザインまでは自信がなく。誤りがあれば申し訳ないとも思えど、)取り敢えず、職員室行ってみます?ご迷惑じゃなきゃ、僕一緒に行って先生に声掛けますし。(先程の担当教諭の顔を脳裏に浮かべつつ、適当な先生に事情を話すより手っ取り早いかと思っての申し出はさて、彼にどう響くか。少しでも戸惑いが見えるようなら教諭の名前だけでも伝える心算で。)

そうだな、一人くらいいそうだけど

(頷く彼女を見ると、「良かった…」と小さく独り言をもらし、安堵したように少し微笑んだ。)ありがとう。(彼女の提案に、「そうだな…」と考えを巡らせる。見知った先生じゃいかもしれないし、彼女の昼休みを少し削ってしまうのは心苦しいが、協力を頼もうか。)うん、一緒に行ってもらえると、助かる。昼休み、ちょっと短くなるけど平気?えっと……名前は?俺は3年の久藤優。

因みににんにく以外なら先輩やったことあったりします?

(紡がれた感謝の句にへらりと浮かぶは緩い笑み。「いえいえ。」と口にしては、続く彼の言葉にひとつ頷いて、)うす、平気す。お腹減り過ぎて3限目の後に1回早弁しとるんで。へへ。(頬を指先で軽く掻いては照れ隠しのような笑いも混ぜつつ、)あ、僕は2年の撫木遥って言います。くとー先輩、よろしくお願いします。(ぺこりと軽く頭を下げ改めての自己紹介。それも早々に顔を上げ、抱えていた荷物を持ち直すと先ずは化学室の扉を指し、)んじゃ、先輩のお昼も短くなっちゃいますし職員室行きましょーか。(そうして歩き出す途次、「先輩は今日のお昼なににされる予定だったんです?」と他愛ない質問も。)