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冬でも花壇は賑やかです。
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(放課後、校庭の片隅にある花壇の脇にしゃがみ込む女が一人。園芸部でもある宮元は季節問わず暑さ、寒さ問わず頻繁に花壇に訪れているが部活動時はジャージが多い。雑草も減っているこの季節は少し楽になるかと思いきや、冬越し球根を植えたり冬に咲く花の手入れをしたりとやはり作業は多い。けれど今はジャージではなく制服姿だった。)冬でもビオラは元気ですね。花は不思議です……。(マフラーに埋もれているためかもぞもぞとした独り言を漏らしながらそっと薄紫の花に触れて。)
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こんなに寒いのに元気だもんなあ、花は子供みたいだなあ。
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(放課後、真直ぐ帰ろうと駐輪場に向かうが、いつもポケットに入れている自転車の鍵がないことに気付く。「あ、そういえば。」と独り言を。昼休みに珍しく校庭でクラスメイトとドッジボールをした。そのとき何故かテンションが高く、無駄に跳ねたりしたのでその時に落としたのだろう。はあ、とため息を一つ。校庭へ向かう。遊んでいたその場に着けば、意外と早く鍵は見つかった。安堵して帰ろうとしたところ。花壇の脇にしゃがむ少女が目に留まり、ゆっくりと近づいて隣に同じくしゃがむ。顔を覗き込むようにして)…君、具合悪いの?(心配そう、というよりは不思議そうに、ぱちぱちと瞬きをして問いかけた。)
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子供のように愛情を注げば答えてくれますので合っています。
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え……?(いつものように花に触れた所に影が落ち、掛けられた言葉に驚き彼を振り返り、花に手を触れたままぱちりと一度瞬いて。)いいえ、具合が悪い訳では無いので大丈夫です。私園芸部で花壇の様子を見に来たんです。寒いのに元気に咲いているかなって。紛らわしくて申し訳ありません。(彼が覗き込むようにしているのは自分がしゃがみこんでいるからだと気づけば花に触れていた手を引っ込め、にこりと笑顔を向けて。)私、1年の宮元鈴樹と言います。お名前を窺ってもいいですか?
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そうなんだ…じゃあもしかして反抗期とか思春期もある?
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(彼女の説明を静かに聞きながら、「具合が悪いんじゃないのか、よかった」「園芸部って意外と大変そうだなあ」などと思考を巡らせたが、敢えてどちらも言葉にはせず。ただ彼女の謝罪については反応しなければ、と。)いや、俺が勝手に勘違いしただけだから。別に謝らないでよ。(あは、と小さく苦笑を零したが、笑顔で応える彼女に、釣られてこちらも微笑を浮かべよう。)ああ、ご丁寧にどうも。(突然名乗られたので反射的に言葉を返すが、直後に彼女の言葉を反芻したところで、眉を顰める。ワンテンポ遅れて「ん?」と声を漏らした。そこから更に数秒の間。以前ノートで見かけた名前を思い出し、合点がいったというような表情でポン、と手を打つ)…ああ、すずるんだ。俺、2年の白鳥春樹ね。よろしく。(彼女に向けてふわりと柔らかく笑んだところで、先程触れていた花に視線を移す)その花、なんていうの?パンジー?(元来植物にはあまり興味がなかったので、花の名前など殆ど解らないが、家の庭に咲いていたパンジーの花をふと思い出して、素直に訊ねてみよう)
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反抗期も思春期もあると思います。
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いえ、勘違いさせてしまったので……すみま……。……つい、謝ってしまいますね。気を付けます。(再び謝罪の言葉が出そうになり、片手で口を押えて。繰り返しても彼を困らせるだけだとなんとか抑え込み小さく苦笑して。彼の笑みにほっとしたのも束の間、何かを考えている様子に宮元も不思議そうに一度ぱちりと瞬き首を傾げ彼を見つめていれば、ぽんと打たれた手。)はい、すずるんです。実際に呼ばれると凄く新鮮です。あ……はるるん、先輩ですね。宜しくお願いします。(宮元もまたノートで見かけた彼の名を思い出し、年上でもあるので愛称に先輩を付ける形で呼びにこりと微笑みながら軽く頭を下げて。彼の視線を追うように宮元も花に視線を移して。)パンジーに似ていますが、この花は小さいのでビオラです。大きさの違いだけですので半分当たりですよ。寒さに強いので秋から春が見頃ですね。花壇一杯に咲いているととても可愛らしくて私はこの小さな花が好きなんです。(花に興味を持ってもらえたことが嬉しくてにこにこと笑顔で説明し、花に伸ばす手は普段の部活や園芸で普通の女子よりも荒れているけれど、愛おしそうに優しく触れて。)
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それは大変だ。すずるんは子育て奮闘ビッグママだね(笑)
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(思わず謝りそうになって苦笑する彼女を見れば、それがなんだか可笑しくて気づけばふっと表情を緩めていた。まだ彼女のことはよく知らないけれども、これがこの子らしさなのだろうと勝手な解釈を。)あ、そっか。ノートで決めたあだ名だから実際に呼ばれるのは初めてなんだね。そうそう、はるるんだよ。こちらこそよろしく。(釣られて軽く会釈。彼女の軽く頭を下げる仕草も名乗った時の所作も、何から何まで丁寧なので此方も思わず普段より幾分丁寧になってしまう。少し違和感を感じつつも決して嫌な感じはせず微笑み返す。)ビオラっていうのか…(始め頭の中で同名の弦楽器を思い浮かべながら彼女の説明を聞いていたが、その様子から花が好きという気持ちが強く感じられて、最終的にはかなり真剣に聴いていた。花に触れる指を細めた目で追う。)そう言われてみるとパンジーよりも小さい気がするなあ。寒さに強いってこと寒い国から来た花なのかな?(と、純粋な疑問を持った所で彼女の目をじっと見つめる。)…すずるんが良ければだけどさ、他にも教えてよ。この時期の見頃の花。(花を見ても精々綺麗だと思う程度で関心も薄かったが、彼女と話せば自分も花が好きになる気がして。もしも時間が許すならばもう少し、と頼んでみるのだった。)
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